昔、夫婦と子供一人いる三人家族があった。母親は、その子を生んで幼いころ亡くなったので、父親は妻がいなくてはと、後妻を迎えて暮らしていた。後妻はその子供をとてもひどくいじめていた。その子はいじめられているうちに五つになると、継母が、「井戸を掘りなさい。」と言い付けた。「僕はまだ子供だから、井戸は掘れません。」と言うと、「母さんの言うことが聞けないのか。」と叱ったので、その子は仕方がなく鍬で井戸を掘ったがようやく一尋ほど下に掘っていると、「もっと深く掘りなさい。」と言われ、また三尋ほど掘ってから、これはどういうことだろうと思ったので、隣りの爺さん婆さんの所に習いに行った。「母が井戸を掘りなさいと言うから、私は子供だから掘ることができませんと言うと、叱られたので、やっと一尋ほど掘ると、それだけではだめだ。まだまだ深く掘りなさい叱られています。どうしたらよいでしょうか。」と聞くと、「言われるままにもっと深く掘って、それでももっと掘りなさいと言われたらまた来なさい。」と言ったからまた三尋ほど掘ると、継母から、「もっと深く掘りなさい。」と言われたので五尋、六尋も掘ってから、何か企みがあるのではないかと思ったので、隣りの爺さん婆さんにまた聞きに行った。「掘ってもまだまだと叱られてばかりです。お爺さんお婆さん、一体どうなんでしょうか。」と言うと、「そんなら、掘りながら足を入れて登られる足場を作りなさい。」と教えてもらったので掘りながら足場を作って七尋、八尋ほど掘ると、また、「まだまだ掘りなさい。」と言われて掘っていると爺さん婆さんが、「そんなら、その井戸に君を埋めるつもりかも知れない。もし上から土を落とされたら、そのときは足場に両足を入れて立って、上から落ちてくる土を避けて下に落し、土が落ちなくなってしばらくしたら、足場に足を掛けて上って登ってきなさい。そうしないと君はそのまま埋められて死んでしまうよ。」と教えくれた。継子はまた井戸に降りて、八尋ほどまで掘っていると、継母が上から土を落としてきた。その子は足場に足を入れて、頭に被さって落ちてくる土を避けて落しながら、土が落ちなくなってしばらくしてから、上に上にと足場をたどってようやく井戸から出ることができた。継子は家には行かないで隣りの爺さん、婆さんの家に行き、「お爺さん、お婆さん、ありがとうございました。教えられたようにして命拾いしました。」と言うと、お爺さんは、「君は家に帰ると間違いなく殺されるから家に帰らないで、この道を真っ直ぐに行くと村がある。その村の学校では君の親戚の人が校長先生をしているから、その人を訪ねて行きなさい。」と教えてくれたので、その子は真っ直ぐに道を行くと道の側に大きな学校があったので、そこに入って行って学校の壁にくっついて立っていると、生徒たちがそれを見て、「あの子は朝早くから壁にくっついて立っているよ。」と校長先生に言った。校長先生は、「誰だろう。じゃ、呼んで来なさい。」と言われたので、「君、校長先生が来なさいと言ってますよ。」と言うと、「はい。」と校長先生のところに連れて行かれ、校長先生が、「君は、どうして朝早くからそこに立っているのか。」と尋ねると、「僕は母が亡くなり、父が後妻を迎えました。その後妻に井戸を掘れと言われたので井戸を掘っていると、上から土を落とされて殺されそうになりましたが、隣りの家の爺さんと婆さんに足場を作れと教えられていたので助かりました。
それで、爺さん婆さんにお礼を言いに行くと、爺さん婆さんがこの村に親戚の人が校長先生をしていらっしゃると教えてくれたので、やって来ました。」と言うと、校長先生は、「そうか、君の父親と私は従兄同士になる。それなら家には帰られないだろうから、当分はここでご飯を食べていなさい。」としばらく置いてもらっていた。ある日、校長先生が、「君をいつまでも、私の所で世話するわけにはいかない。君がどこに行っても生活できるお金と島で一番よい布で作った飛び衣をあげるから、それを持って旅に出て行きなさい。」と言って、たくさんのお金と飛び衣をもらった。子供はお金を財布に入れ、飛び衣は風呂敷に包んで、「ありがとうございました。」とお礼を言って、その家を出て足の向くままどんどん行くと、山の麓で爺さんと婆さんが汗を流しながら、働いているので、お爺さん、お婆さん、夕暮れになったので、あなたの家に私を泊めて下さいませんか。お願いします。」と頼んだ。「家に子供がいないから、君がいたいなら何日でいればいいよ。」と言うので、「お願いします。」と世話になっているうちに、その子が、「私はこうしていつまでものんきにしてはいられません。この村の按司加那志は使用人を沢山使っているということですが、私を雇ってもらえないか按司加那志に聞いてもらえませんか。」と言うと、「あの家には使用人が十二人もいるから仕事はないと思うよ。」と言ったが、「まず、伺ってみて下さい。お願いです。」と言うので、「じゃあ。」とお婆さんは行って、按司加那志に、「私の家に男の子がいます。あなたの家で雇ってもらえませんか。」と言うと、按司加那志は、「ああ、私の家では十二人も人を雇っていて、皆それぞれ仕事をしてもらっているから、今のところ人は雇えないね。」と断った。婆さんは家に帰って、「仕事はありませんと断られたよ。」とその子供に言うと、「炊事係でもいいから使って下さいともう一度頼んでみて下さい。」とお婆さんにもう一度お願いすると、「炊事人は向こうにはたくさんいるから頼んでも駄目だと思うがね。」と言った。それでも子供は、「でも、もう一回だけお願いします。」と頼まれたので、婆さんはまた按司加那志の家に行って、「飯炊きでもいいから、ぜひ使って下さい。」と言うので、按司加那志は、「では、連れて来てごらん。」と言われたので、家に帰り、「とにかく連れてきなさいと言われましたから行こう。」と、按司加那志の家に連れて行くと、按司加那志が言われるには、「竃(かまど)八つに八つの釜をかけて同時に米のご飯を炊き上げることができるなら雇ってやろう。」と言って、お米を渡されたので、「はい、できます。」と言って、八つの釜にお米を入れて洗って用意をし、八つの竃に同時に火を炊き付けて、どんどん炊いた。蓋をとって見たら、どれもこれもとてもおいしく炊きあがっているのに、びっくりして、「よし、君を雇ってやる。」と言って、先にいたご飯炊きの使用人の位を上げ、「今日から君を炊事係とする。」とその子を炊事人として雇うことなった。按司加那志の家に近所の役人の子供たちが集まって来て学問を習っていた。その子供はとても羨ましくなったが、昔は学問は侍しか学べないので、「なんとかして自分もできないかな。ぜひ学問を身につけたい。」と思って、侍の子が捨てた紙に書いてある字の真似をして習い、暇があるたびに人には見つからないように習って頭の中に覚えるようにした。またお茶の間に捨てられた紙切れなどを拾い集め、塵捨場などの紙切れも拾い集めて、それで勉強し、また本の破れたものなども探して集めて、知っている人に頼んで教えてもらい、薪の消炭で紙に書いたり、暇を利用して熱心に努力していた。按司加那志には一人娘がいて、二階の部屋に住んでいて、その炊事人の子供がしていることをいつも見ていて、「この人はなんて熱心で、真面目な人か。」と感心していた。ある日、村の運動会があって、按司加那志から、「全員見にいきなさい。」と按司のお許しがあって、奉公人には、めいめいに馬一頭が与えたので、奉公人達は新しい着物を着て自分の馬に鞍を掛けてまたがり、さあ行こうとぞろぞろ出かけて行った。その炊事をしている子供は一人残って灰をかぶって縮こまって勉強をしていると、最後に出かける奉公人達が、その子を馬鹿にして、「私たちは、今日按司のお許しで運動会を見にいきなさいと言われたので皆で行くが、君のような灰かぶり、ごみ被り者は行けないだろう。」と馬鹿にした。子供は奉公人達に何を言われても我慢して、「はい、私は行かないから、あなた方は行って下さい。」と言った。だけど、皆が出て行くと、「彼らに馬鹿にされてはおれない。」と水浴びして身体をきれいにすると、校長先生からもらった飛び衣を着て、自分の馬に鞍を掛けて乗ると、空を飛んで運動場に行くと、馬に乗って空をぐるぐると飛び廻ったので、集まっていた人たちは運動会を見ないで、「ほう、この人はどういう方だろう。天から神様が降りてこられたのかなあ。」とこの子が空を飛んでいるのを見て感心していた。その子供はすぐに引き返すと家に帰り、早速馬から鞍を取りはずして馬を馬小屋に繋ぎ、着物を着換えて飛び衣をまた元のように包みなおして、知らん振りをして座っていた。二階にいる娘は、その日もその子供のすることをちゃんと見ていた。それから何日か後、親の按司加那志が娘を呼んで、「今日は婿選びをする。お前は前を通る好きな人に、この鞠を投げて当てなさい。」と言った。娘は、「はい。」と言って鞠を持っていると、そこにいる按司加那志の部下たちは、「俺に投げてくれないかなあ。」とか、また、「俺に当たるかなあ。」とみんなが自分に当たることを期待して、娘の前を通ると、その娘は、若い侍達が通っても誰にも投げず、奉公人が通っても誰にも投げなかったが、最後に炊事係の灰だらけの子供が通ると、その子供に投げたのでみんな驚いたり、癪に障ったりして、「あんな汚い子供が按司の婿になるなんて。」と残念がっていた。按司加那志は娘を呼んで、「お前は一番上の位の人でもなく、その次の人でもなく、一番下の位の炊事人に鞠を投げたのは一体どういうことか。」と聞くと、「あの人は立派な人ですから私はあの人に鞠を投げました。あの人を婿に取ります。」と言った。按司加那志は、賢い娘がそういうので、「ああそうか。じゃあ、あの子を呼んできなさい。」と呼んでその子に字を書いたものを見せて聞いた。「君は私が書いた字が読めるか。読めるなら読んでごらん。」と言ったので、「はい。」と言って、すらすらと字を読んだので、按司加那志は驚いて、「この子は不思議な子だ。」と思って、また本を出して、「この本を読んでごらん。」と言われると、「はい。」と言って、その本をさっと読んだので、また按司加那志が他の本を持ってきて、「そんならこれも読みなさい。」と与えると、すぐすらすらと全部終わりまで読んだ。どんな本を持ってきても平気で全部読むので、「この子はほんとに偉い子だ。なんでもできる子だから、私の娘が見込んだのだ。」と思って、娘の望みどおりに、その子を婿にした。やがて、その子供の親達が息子が按司加那志の婿になっていると聞いて訪ねて来ては子供の出世を喜び、子供に心からお詫びして親子睦まじく暮らして幸せになった。
| レコード番号 | 47O341561 |
|---|---|
| CD番号 | 47O34C120 |
| 決定題名 | 継子の井戸掘り 灰坊太郎(共通語) |
| 話者がつけた題名 | 継子話 井戸掘り 灰坊 |
| 話者名 | 後真地加美 |
| 話者名かな | ついまじかみ |
| 生年月日 | 18990103 |
| 性別 | 男 |
| 出身地 | 沖縄県八重山郡与那国町祖納 |
| 記録日 | 19760805 |
| 記録者の所属組織 | 沖縄口承文芸学術調査団 |
| 元テープ番号 | 与那国町祖納 T53 B02 |
| 元テープ管理者 | 沖縄伝承話資料センター |
| 分類 | 本格昔話 |
| 発句(ほっく) | - |
| 伝承事情 | - |
| 文字化資料 | 八重山諸島民話集 P86 |
| キーワード | 継母,井戸,子供,隣り,爺さん,婆さん,足場,土,校長先生,飛び衣,旅,お金と,山の麓,按司加那志,使用人,炊事人,竃,八つの釜,学問,侍,勉強,努力,一人娘,運動会,馬,奉公人,灰かぶり,水浴び,空,神様,婿選び,鞠,出世 |
| 梗概(こうがい) | 昔、夫婦と子供一人いる三人家族があった。母親は、その子を生んで幼いころ亡くなったので、父親は妻がいなくてはと、後妻を迎えて暮らしていた。後妻はその子供をとてもひどくいじめていた。その子はいじめられているうちに五つになると、継母が、「井戸を掘りなさい。」と言い付けた。「僕はまだ子供だから、井戸は掘れません。」と言うと、「母さんの言うことが聞けないのか。」と叱ったので、その子は仕方がなく鍬で井戸を掘ったがようやく一尋ほど下に掘っていると、「もっと深く掘りなさい。」と言われ、また三尋ほど掘ってから、これはどういうことだろうと思ったので、隣りの爺さん婆さんの所に習いに行った。「母が井戸を掘りなさいと言うから、私は子供だから掘ることができませんと言うと、叱られたので、やっと一尋ほど掘ると、それだけではだめだ。まだまだ深く掘りなさい叱られています。どうしたらよいでしょうか。」と聞くと、「言われるままにもっと深く掘って、それでももっと掘りなさいと言われたらまた来なさい。」と言ったからまた三尋ほど掘ると、継母から、「もっと深く掘りなさい。」と言われたので五尋、六尋も掘ってから、何か企みがあるのではないかと思ったので、隣りの爺さん婆さんにまた聞きに行った。「掘ってもまだまだと叱られてばかりです。お爺さんお婆さん、一体どうなんでしょうか。」と言うと、「そんなら、掘りながら足を入れて登られる足場を作りなさい。」と教えてもらったので掘りながら足場を作って七尋、八尋ほど掘ると、また、「まだまだ掘りなさい。」と言われて掘っていると爺さん婆さんが、「そんなら、その井戸に君を埋めるつもりかも知れない。もし上から土を落とされたら、そのときは足場に両足を入れて立って、上から落ちてくる土を避けて下に落し、土が落ちなくなってしばらくしたら、足場に足を掛けて上って登ってきなさい。そうしないと君はそのまま埋められて死んでしまうよ。」と教えくれた。継子はまた井戸に降りて、八尋ほどまで掘っていると、継母が上から土を落としてきた。その子は足場に足を入れて、頭に被さって落ちてくる土を避けて落しながら、土が落ちなくなってしばらくしてから、上に上にと足場をたどってようやく井戸から出ることができた。継子は家には行かないで隣りの爺さん、婆さんの家に行き、「お爺さん、お婆さん、ありがとうございました。教えられたようにして命拾いしました。」と言うと、お爺さんは、「君は家に帰ると間違いなく殺されるから家に帰らないで、この道を真っ直ぐに行くと村がある。その村の学校では君の親戚の人が校長先生をしているから、その人を訪ねて行きなさい。」と教えてくれたので、その子は真っ直ぐに道を行くと道の側に大きな学校があったので、そこに入って行って学校の壁にくっついて立っていると、生徒たちがそれを見て、「あの子は朝早くから壁にくっついて立っているよ。」と校長先生に言った。校長先生は、「誰だろう。じゃ、呼んで来なさい。」と言われたので、「君、校長先生が来なさいと言ってますよ。」と言うと、「はい。」と校長先生のところに連れて行かれ、校長先生が、「君は、どうして朝早くからそこに立っているのか。」と尋ねると、「僕は母が亡くなり、父が後妻を迎えました。その後妻に井戸を掘れと言われたので井戸を掘っていると、上から土を落とされて殺されそうになりましたが、隣りの家の爺さんと婆さんに足場を作れと教えられていたので助かりました。 それで、爺さん婆さんにお礼を言いに行くと、爺さん婆さんがこの村に親戚の人が校長先生をしていらっしゃると教えてくれたので、やって来ました。」と言うと、校長先生は、「そうか、君の父親と私は従兄同士になる。それなら家には帰られないだろうから、当分はここでご飯を食べていなさい。」としばらく置いてもらっていた。ある日、校長先生が、「君をいつまでも、私の所で世話するわけにはいかない。君がどこに行っても生活できるお金と島で一番よい布で作った飛び衣をあげるから、それを持って旅に出て行きなさい。」と言って、たくさんのお金と飛び衣をもらった。子供はお金を財布に入れ、飛び衣は風呂敷に包んで、「ありがとうございました。」とお礼を言って、その家を出て足の向くままどんどん行くと、山の麓で爺さんと婆さんが汗を流しながら、働いているので、お爺さん、お婆さん、夕暮れになったので、あなたの家に私を泊めて下さいませんか。お願いします。」と頼んだ。「家に子供がいないから、君がいたいなら何日でいればいいよ。」と言うので、「お願いします。」と世話になっているうちに、その子が、「私はこうしていつまでものんきにしてはいられません。この村の按司加那志は使用人を沢山使っているということですが、私を雇ってもらえないか按司加那志に聞いてもらえませんか。」と言うと、「あの家には使用人が十二人もいるから仕事はないと思うよ。」と言ったが、「まず、伺ってみて下さい。お願いです。」と言うので、「じゃあ。」とお婆さんは行って、按司加那志に、「私の家に男の子がいます。あなたの家で雇ってもらえませんか。」と言うと、按司加那志は、「ああ、私の家では十二人も人を雇っていて、皆それぞれ仕事をしてもらっているから、今のところ人は雇えないね。」と断った。婆さんは家に帰って、「仕事はありませんと断られたよ。」とその子供に言うと、「炊事係でもいいから使って下さいともう一度頼んでみて下さい。」とお婆さんにもう一度お願いすると、「炊事人は向こうにはたくさんいるから頼んでも駄目だと思うがね。」と言った。それでも子供は、「でも、もう一回だけお願いします。」と頼まれたので、婆さんはまた按司加那志の家に行って、「飯炊きでもいいから、ぜひ使って下さい。」と言うので、按司加那志は、「では、連れて来てごらん。」と言われたので、家に帰り、「とにかく連れてきなさいと言われましたから行こう。」と、按司加那志の家に連れて行くと、按司加那志が言われるには、「竃(かまど)八つに八つの釜をかけて同時に米のご飯を炊き上げることができるなら雇ってやろう。」と言って、お米を渡されたので、「はい、できます。」と言って、八つの釜にお米を入れて洗って用意をし、八つの竃に同時に火を炊き付けて、どんどん炊いた。蓋をとって見たら、どれもこれもとてもおいしく炊きあがっているのに、びっくりして、「よし、君を雇ってやる。」と言って、先にいたご飯炊きの使用人の位を上げ、「今日から君を炊事係とする。」とその子を炊事人として雇うことなった。按司加那志の家に近所の役人の子供たちが集まって来て学問を習っていた。その子供はとても羨ましくなったが、昔は学問は侍しか学べないので、「なんとかして自分もできないかな。ぜひ学問を身につけたい。」と思って、侍の子が捨てた紙に書いてある字の真似をして習い、暇があるたびに人には見つからないように習って頭の中に覚えるようにした。またお茶の間に捨てられた紙切れなどを拾い集め、塵捨場などの紙切れも拾い集めて、それで勉強し、また本の破れたものなども探して集めて、知っている人に頼んで教えてもらい、薪の消炭で紙に書いたり、暇を利用して熱心に努力していた。按司加那志には一人娘がいて、二階の部屋に住んでいて、その炊事人の子供がしていることをいつも見ていて、「この人はなんて熱心で、真面目な人か。」と感心していた。ある日、村の運動会があって、按司加那志から、「全員見にいきなさい。」と按司のお許しがあって、奉公人には、めいめいに馬一頭が与えたので、奉公人達は新しい着物を着て自分の馬に鞍を掛けてまたがり、さあ行こうとぞろぞろ出かけて行った。その炊事をしている子供は一人残って灰をかぶって縮こまって勉強をしていると、最後に出かける奉公人達が、その子を馬鹿にして、「私たちは、今日按司のお許しで運動会を見にいきなさいと言われたので皆で行くが、君のような灰かぶり、ごみ被り者は行けないだろう。」と馬鹿にした。子供は奉公人達に何を言われても我慢して、「はい、私は行かないから、あなた方は行って下さい。」と言った。だけど、皆が出て行くと、「彼らに馬鹿にされてはおれない。」と水浴びして身体をきれいにすると、校長先生からもらった飛び衣を着て、自分の馬に鞍を掛けて乗ると、空を飛んで運動場に行くと、馬に乗って空をぐるぐると飛び廻ったので、集まっていた人たちは運動会を見ないで、「ほう、この人はどういう方だろう。天から神様が降りてこられたのかなあ。」とこの子が空を飛んでいるのを見て感心していた。その子供はすぐに引き返すと家に帰り、早速馬から鞍を取りはずして馬を馬小屋に繋ぎ、着物を着換えて飛び衣をまた元のように包みなおして、知らん振りをして座っていた。二階にいる娘は、その日もその子供のすることをちゃんと見ていた。それから何日か後、親の按司加那志が娘を呼んで、「今日は婿選びをする。お前は前を通る好きな人に、この鞠を投げて当てなさい。」と言った。娘は、「はい。」と言って鞠を持っていると、そこにいる按司加那志の部下たちは、「俺に投げてくれないかなあ。」とか、また、「俺に当たるかなあ。」とみんなが自分に当たることを期待して、娘の前を通ると、その娘は、若い侍達が通っても誰にも投げず、奉公人が通っても誰にも投げなかったが、最後に炊事係の灰だらけの子供が通ると、その子供に投げたのでみんな驚いたり、癪に障ったりして、「あんな汚い子供が按司の婿になるなんて。」と残念がっていた。按司加那志は娘を呼んで、「お前は一番上の位の人でもなく、その次の人でもなく、一番下の位の炊事人に鞠を投げたのは一体どういうことか。」と聞くと、「あの人は立派な人ですから私はあの人に鞠を投げました。あの人を婿に取ります。」と言った。按司加那志は、賢い娘がそういうので、「ああそうか。じゃあ、あの子を呼んできなさい。」と呼んでその子に字を書いたものを見せて聞いた。「君は私が書いた字が読めるか。読めるなら読んでごらん。」と言ったので、「はい。」と言って、すらすらと字を読んだので、按司加那志は驚いて、「この子は不思議な子だ。」と思って、また本を出して、「この本を読んでごらん。」と言われると、「はい。」と言って、その本をさっと読んだので、また按司加那志が他の本を持ってきて、「そんならこれも読みなさい。」と与えると、すぐすらすらと全部終わりまで読んだ。どんな本を持ってきても平気で全部読むので、「この子はほんとに偉い子だ。なんでもできる子だから、私の娘が見込んだのだ。」と思って、娘の望みどおりに、その子を婿にした。やがて、その子供の親達が息子が按司加那志の婿になっていると聞いて訪ねて来ては子供の出世を喜び、子供に心からお詫びして親子睦まじく暮らして幸せになった。 |
| 全体の記録時間数 | 22:42 |
| 物語の時間数 | 22:30 |
| 言語識別 | 共通語 |
| 音源の質 | △ |
| テープ番号 | - |
| 予備項目1 | - |