ある兄妹がいて、兄の方は比川部落に住み、妹は久部良部落に住んでおった。その比川部落の兄が異国人がまた今年も久部良来ておると言う話を聞いて、自分の妹がおる久部良へ行って見た。そしたら異国人の船が港の沖に錨を下ろしていた。「ああ、ほんとうだ。この船が来たらこの島の者をみんな殺してしまうから、あの異国人に殺されたら自分の骨をどこへ捨てられるか分からん。それよりは自分で死んだ方が自分の遺骨を残せる。」と言って、自分の妹を殺し、自分も自殺する覚悟で石で墓を作って自殺する刀を砥いでいた。そこへ神ぶり〔神がかり〕しているサンアイイイソバという女が来てね、「お前は何をしておるか。」と言うから、「久部良部落に行ってみたら、異国の大喰人が来ている。あれが上陸したら皆殺されて、どこへ骨を捨てるか分からん。だから、自分の骨を島に残すために墓を作って、私は妹を殺して、私もその墓に入って自殺するつもだ。」と言うとイソバは、「いや、待ちなさい。私が船を戻してやるから、そんなことはするな。」とイソバが止めた。「ああ、そうですか。戻すことができますか。」「ああ、できる。」と言っうから、その人の命令で刀をおさめると、「そんなら、わたしの言うことやりなさい。」と言うから、「はい。」と言うと、「畑に作っておる粟を一升鍋に入れて粟餅を作ってズーンズン切り回して、それを鉄(かね)みたいな色になるまで焼きなさい。」と言ったそうだ。だから、その男は畑の粟を取って来ると、一升計って鍋に入れて、もう本当に鉄みたいに赤くなるまで焼いた。そのよく焼いた粟餅を持って行くと、「それを立派に刀で切って、ご馳走みたいに重箱に盛れ。」と言うから、刀で切って重箱の中にいっぱいに盛った。「もう一つはほんとうの鉄の鍋の割れたのを立派に刀で割って、この重箱の中に盛りなさい。」と言うので男は、言われた通りに鉄の割ったものを重箱の中に盛りつけると、イソバは、「酒を持って船にわしと一緒に行こう。」と言う。「何しにかどこに行くのか。」と聞いたら、「今来た人らの船に乗って食べさせるさ。」「そんなもの、食べますかな。」と言うと、「あんたはこの重箱を持って一緒に行って、あの人たちに箸ではさんであげる場合には鉄の割れをあげる。粟をあげるな。粟は自分に出しなさい。これは間違うなよ。粟は向こうにあげるな。鍋の割れをあげろ。」と言うから、「ほう、こんな鍋の割れを人間にやるのか。」「いや、わしが言うとおりにやれ。」って言って、酒を持って重箱も風呂敷に包んで、久部良に着くと、港から二人で小舟に乗って、沖にいる異国人の船に行った。すると、船におる人たちが、「君らはなにしにここに来ておるか。」と言った。「いやいや皆さん、久しぶりでここにいらっしゃいましたんですから、いろいろご馳走作ってありますから、おあがりください。」とイソバがいうと、喜んで、「ほう、そうか。船におあがり。」と言ったので、二人とも船にあがった。船に上がると、皆まるくなって座っている異国人に酒を皆についで飲ませて、「ご馳走を持って来た。さあ食べて下さい。」と言うて、重箱に入れておいた鍋の割たのをはさんでみんなに渡した。それを船員が食おうとしたら硬くて食えないから、「なにか、これは、こんなもの人間が食べられるもんか。」と怒るそうだ。「いや、わしはいつもこんなもの食べておるから、自分が食べられるものだから、あなた方にあげようと、持って来ておる。」「お前、そんなら食べろ。」と怒るから、それで、焼いた粟餅をどんどん食べた。そしたら、異国人は目を丸くしてね、「この人は恐ろしい。こんな鉄まで噛んでいるような人間がこの国におるのか。これは危い。」と恐れて、「ああ、もうありがとう。これでもう結構です。あんた方はお帰りなさい。」って言うから、「ああ、そうか。帰ろう。」と言って、二人は重箱をまた包んで庫舟に乗って岸に帰った。異国人は、「この島にいたら、みんな殺して食べられるわ。恐ろしい。」と錨をあげると帆をかけて船は久部良の港をとび出して行った。イソバは喜んで、「私が言うとおりになった。」と陸に上がると、石を一つ探してきて、「今からあとさきこんな船はここに決して入らしてくれるな。」と神様に願って祈った。また、イソバは与那国の一番大事な宝物は、機織(はたお)りをする機(はた)だから、自分といっしょに歩く子どもに与那国の小さい機を持って来させると、「流れて行かんように重しをつけて杼(ひ)で巻いて、ここにピシッと置きなさい。」と言って、海の中に入れると、「今からあんな異国の船は決してここにこんなの入れないでください。」って願った。その願いから久部良の祭は始まった。また、イソバは、人間とは交わらないが妊娠していた。「私は人間との交わりは途絶えておるんだが、その私が妊娠するのは不思議なことだ。」と思っていると、男の子が生まれた。それが強い武士になると分かったから、「これは自分が養うてはいかん。久部良部落の人に預けてやろう。」と久部良部落の人に、「あなたは、この子を養いなさい。」と頼むと、「はい、そんなら養います。」と、その人が連れて行って養うと、その子供はもう今日みたら太る。明日みたらまた太ってどんどん大きくなった。「こりゃ、危い。鳥小屋に持って行って押し込んでおけ。」と草むらへ連れて、鳥小屋に押し込めると、その子供は鳥小屋で、鳥の鳴くようにバタバタと言ってね、コッカコー、コッカコーと鳴いた。それを聞いた人が、「あそこに鳴くのは何か。鳥がおるか。その子どもが鳴くのか。誰か行ってみろ、」と言うから行って見て、「いや、鳥はおらん。その子どもがやっている。」「ああそうか。ほんなら、ここに出してこい。」と言うから、出してきたら、「あなたが、今、鳥小屋に羽根をバタバタして鳴いていたのか。」と聞くと、「そうだ。わしは人間だが鳥小屋へ入れたんだから、鳥になってみせようと、わしが鳴いていた。」と言っから、「これはすみません。わしらが悪かった。」と言って謝った。その後、その子供は身体が大変大きい力の強い偉い武士になって、侍の家を作って構えた。その人が生まれたという話が異国人に聞こえたので、その人を殺すためには、どうすればよいかと考えて、「もしもこれに手向かいしたら、わたしらが殺されてしまうから、手向かいはせずに、何か毒を飲ましてやろう。」と相談して何か毒を盛ってね、「これは非常においしいものだから食べなさい。」と言って毒を飲ませたから、その人は死んだそうだ。それが比川祭の始まりになった。
| レコード番号 | 47O341557 |
|---|---|
| CD番号 | 47O34C119 |
| 決定題名 | 与那国の祭りの由来(共通語) |
| 話者がつけた題名 | - |
| 話者名 | 後真地加美 |
| 話者名かな | ついまじかみ |
| 生年月日 | 18990103 |
| 性別 | 男 |
| 出身地 | 沖縄県八重山郡与那国町祖納 |
| 記録日 | 19760805 |
| 記録者の所属組織 | 沖縄口承文芸学術調査団 |
| 元テープ番号 | 与那国町祖納 T53 A05 |
| 元テープ管理者 | 沖縄伝承話資料センター |
| 分類 | 伝説、 民俗 |
| 発句(ほっく) | - |
| 伝承事情 | - |
| 文字化資料 | 八重山諸島民話集 P152 |
| キーワード | 兄妹,比川部落,久部良部落,異国人,船,骨,自殺,墓,神ぶり,サンアイイイソバ,女,粟餅,鉄,重箱,酒,神様,機織り,与那国,久部良の祭,妊娠,男の子,武士,鳥小屋,毒,比川祭 |
| 梗概(こうがい) | ある兄妹がいて、兄の方は比川部落に住み、妹は久部良部落に住んでおった。その比川部落の兄が異国人がまた今年も久部良来ておると言う話を聞いて、自分の妹がおる久部良へ行って見た。そしたら異国人の船が港の沖に錨を下ろしていた。「ああ、ほんとうだ。この船が来たらこの島の者をみんな殺してしまうから、あの異国人に殺されたら自分の骨をどこへ捨てられるか分からん。それよりは自分で死んだ方が自分の遺骨を残せる。」と言って、自分の妹を殺し、自分も自殺する覚悟で石で墓を作って自殺する刀を砥いでいた。そこへ神ぶり〔神がかり〕しているサンアイイイソバという女が来てね、「お前は何をしておるか。」と言うから、「久部良部落に行ってみたら、異国の大喰人が来ている。あれが上陸したら皆殺されて、どこへ骨を捨てるか分からん。だから、自分の骨を島に残すために墓を作って、私は妹を殺して、私もその墓に入って自殺するつもだ。」と言うとイソバは、「いや、待ちなさい。私が船を戻してやるから、そんなことはするな。」とイソバが止めた。「ああ、そうですか。戻すことができますか。」「ああ、できる。」と言っうから、その人の命令で刀をおさめると、「そんなら、わたしの言うことやりなさい。」と言うから、「はい。」と言うと、「畑に作っておる粟を一升鍋に入れて粟餅を作ってズーンズン切り回して、それを鉄(かね)みたいな色になるまで焼きなさい。」と言ったそうだ。だから、その男は畑の粟を取って来ると、一升計って鍋に入れて、もう本当に鉄みたいに赤くなるまで焼いた。そのよく焼いた粟餅を持って行くと、「それを立派に刀で切って、ご馳走みたいに重箱に盛れ。」と言うから、刀で切って重箱の中にいっぱいに盛った。「もう一つはほんとうの鉄の鍋の割れたのを立派に刀で割って、この重箱の中に盛りなさい。」と言うので男は、言われた通りに鉄の割ったものを重箱の中に盛りつけると、イソバは、「酒を持って船にわしと一緒に行こう。」と言う。「何しにかどこに行くのか。」と聞いたら、「今来た人らの船に乗って食べさせるさ。」「そんなもの、食べますかな。」と言うと、「あんたはこの重箱を持って一緒に行って、あの人たちに箸ではさんであげる場合には鉄の割れをあげる。粟をあげるな。粟は自分に出しなさい。これは間違うなよ。粟は向こうにあげるな。鍋の割れをあげろ。」と言うから、「ほう、こんな鍋の割れを人間にやるのか。」「いや、わしが言うとおりにやれ。」って言って、酒を持って重箱も風呂敷に包んで、久部良に着くと、港から二人で小舟に乗って、沖にいる異国人の船に行った。すると、船におる人たちが、「君らはなにしにここに来ておるか。」と言った。「いやいや皆さん、久しぶりでここにいらっしゃいましたんですから、いろいろご馳走作ってありますから、おあがりください。」とイソバがいうと、喜んで、「ほう、そうか。船におあがり。」と言ったので、二人とも船にあがった。船に上がると、皆まるくなって座っている異国人に酒を皆についで飲ませて、「ご馳走を持って来た。さあ食べて下さい。」と言うて、重箱に入れておいた鍋の割たのをはさんでみんなに渡した。それを船員が食おうとしたら硬くて食えないから、「なにか、これは、こんなもの人間が食べられるもんか。」と怒るそうだ。「いや、わしはいつもこんなもの食べておるから、自分が食べられるものだから、あなた方にあげようと、持って来ておる。」「お前、そんなら食べろ。」と怒るから、それで、焼いた粟餅をどんどん食べた。そしたら、異国人は目を丸くしてね、「この人は恐ろしい。こんな鉄まで噛んでいるような人間がこの国におるのか。これは危い。」と恐れて、「ああ、もうありがとう。これでもう結構です。あんた方はお帰りなさい。」って言うから、「ああ、そうか。帰ろう。」と言って、二人は重箱をまた包んで庫舟に乗って岸に帰った。異国人は、「この島にいたら、みんな殺して食べられるわ。恐ろしい。」と錨をあげると帆をかけて船は久部良の港をとび出して行った。イソバは喜んで、「私が言うとおりになった。」と陸に上がると、石を一つ探してきて、「今からあとさきこんな船はここに決して入らしてくれるな。」と神様に願って祈った。また、イソバは与那国の一番大事な宝物は、機織(はたお)りをする機(はた)だから、自分といっしょに歩く子どもに与那国の小さい機を持って来させると、「流れて行かんように重しをつけて杼(ひ)で巻いて、ここにピシッと置きなさい。」と言って、海の中に入れると、「今からあんな異国の船は決してここにこんなの入れないでください。」って願った。その願いから久部良の祭は始まった。また、イソバは、人間とは交わらないが妊娠していた。「私は人間との交わりは途絶えておるんだが、その私が妊娠するのは不思議なことだ。」と思っていると、男の子が生まれた。それが強い武士になると分かったから、「これは自分が養うてはいかん。久部良部落の人に預けてやろう。」と久部良部落の人に、「あなたは、この子を養いなさい。」と頼むと、「はい、そんなら養います。」と、その人が連れて行って養うと、その子供はもう今日みたら太る。明日みたらまた太ってどんどん大きくなった。「こりゃ、危い。鳥小屋に持って行って押し込んでおけ。」と草むらへ連れて、鳥小屋に押し込めると、その子供は鳥小屋で、鳥の鳴くようにバタバタと言ってね、コッカコー、コッカコーと鳴いた。それを聞いた人が、「あそこに鳴くのは何か。鳥がおるか。その子どもが鳴くのか。誰か行ってみろ、」と言うから行って見て、「いや、鳥はおらん。その子どもがやっている。」「ああそうか。ほんなら、ここに出してこい。」と言うから、出してきたら、「あなたが、今、鳥小屋に羽根をバタバタして鳴いていたのか。」と聞くと、「そうだ。わしは人間だが鳥小屋へ入れたんだから、鳥になってみせようと、わしが鳴いていた。」と言っから、「これはすみません。わしらが悪かった。」と言って謝った。その後、その子供は身体が大変大きい力の強い偉い武士になって、侍の家を作って構えた。その人が生まれたという話が異国人に聞こえたので、その人を殺すためには、どうすればよいかと考えて、「もしもこれに手向かいしたら、わたしらが殺されてしまうから、手向かいはせずに、何か毒を飲ましてやろう。」と相談して何か毒を盛ってね、「これは非常においしいものだから食べなさい。」と言って毒を飲ませたから、その人は死んだそうだ。それが比川祭の始まりになった。 |
| 全体の記録時間数 | 12:15 |
| 物語の時間数 | 12:00 |
| 言語識別 | 共通語 |
| 音源の質 | △ |
| テープ番号 | - |
| 予備項目1 | - |