鉄門の福分(シマグチ)

てつじょーのふくぶん

概要

一日の食い分というたいそう働き者がおったそうだが、この人は働いて明日の物といって蓄えておいても翌日起きたらいつのまにかなくなっていた。薪さえも取ってきて天井に上げておくと翌日起きて見たら、その持って来た薪がないのさ。そいつは頑丈者で働き者だから、「これは、もうまた薪盗人が私の物盗んでいるな。ぜひこいつを捕まえてみせる。」と言って、もう次の日にまた薪を取って来て、盗みに来たら捕まえようと、「そうはさせないよ。今度こそきさまら盗人が来たら捕まえるからね。」と薪の中に自分も一緒に束ねて、薪とともに天井で寝ているわけ。そして、翌日起きたら自分の知らないところに来ているようだね。「ここはどこだ。不思議なものだ。」と目をきょろきょろしていたら、昔の大官の方々がお座りになっていらしたそうだ。自分はそこの座敷で、もう目をきょろきょろさせて、「あれ、私は天井に寝ていたのに、どうしてこうなっているのかな。」と考えたが、もうどんなに考えても考えられないのさ。そうしたら、後でそこの係官らしき人がいらして、「きさまはなんでここに来ているのだ。どこのどいつだ。」「不思議なことでございます。私はなぜ、いつのまにここにきているのでしょうか。」ともう戸惑っていたそうだよ。分からないのですから、「おい、お前はそこに来ているが意味が分からんか。」「分かりませんですね。お聞かせ下さい。」「ここは、この天のお役所なんだよ。」とおっしゃった。「ええ、役所。どうして私は悪いことしていませんのに、ここへしょっ引かれたのかなあ。」「お前をしょ引いたのではない。ただ薪といっしょに寝てたからここへ巻き上げられたわけなんだよ。」と言うから、「ああ、そうなんですか、これはもう私は考えても考えられませんねえ。だって、これは私の薪ですから、そこで、一緒に寝ていたのだし、なぜこうしてここにしょっ引いていらしたのやら。」そいつはもうしょっ引っかれたと考えている。「んん、お前には、それが分からんだろう。言ってきかせようね。お前は、皆も働き者と分かって感心しているがね、人は生まれたときから、生まれ徳と言うのがあるんだが、その徳がお前のは少ないんだよ。」と、おっしゃったのさ。「え、そうなのですか。それは、もう生まれ徳が少ないから、私は幾ら働いても、だめなんですか。おかしなことですね。」「うん、それはその各々のクエブーあるから。」そいつは、自分のクエブーが分からないのだからなあ、「そうだ。それでは、その私のクエブーがどれだけあるのか見せてください。」と、自分のクエブー見に行ったようだ。「これはお前のクエブーさ。」と言われて見たら、もう自分のクエブーは、小さな入れ物の真ん中の下のほうにほんの少しだったようだね。そして、「これは誰のクエブー、これは誰のクエブー。」と言って見せてもらったら、みんな自分のものよりとっても大きいんだよ。後は、一番たくさんの盥の中にあるクエブーになったようだ。そう、一番大きいのを見せてもらった。「そうするとこれは誰のクエブーでしょうか。」「はい、これはそのまだ生まれていませんがね。名はジョーガニーと言う人のクエブーですよ。」「ああ、そうなんですか。そんなら、それが生まれるまでの間、そのまだ生まれていないジョーガニのクエブーを貸して下さい。生まれたらまた返しますよ。」と言ってお願いしたようだな。「はい、よろしい。それなら、お前は心がいいから、貸してやるから、そのジョーガニーという人が生まれたら返しなさいよ。」「はい。」と言ってよ、そこで約束をして、「それならよしいまた働きなさいよ。」とそこから、出向かわされて帰って来たそうだよ。この一日クエブーという男は、もうとても働き者だからもう、それからは、働いただけ全部実になって貯蓄をして、立派に大金持ちなった。そうしてもう、首里あたりか分からないが、金はたくさんあるのだから、ちょうど守礼之門のように家の門も造ってさ、そうしていたて、貧乏者を良く助けたようだ。あるとき、乞食の夫婦がそこの家に物乞いしに来ているわけ。妻は妊娠しているのさ。そして、もう昔なのだからね、妊娠しても誰も見られないさ。そうして、その金持ちの家にやって来たら、産み月にはいっているから、いつも身体が重いのでしょう。その家の門の下で、夫婦が二人ともそろって寝てよ、そうするうちに、その家の門の下で赤子を産み落としてよ。赤子を産んでから、もうそれでも二人で、やはり乞食だから他人にお願いして、着物などをもらっていたさ。その着物に赤子をくるんでいるうちに、いい時間になったら、そこの家の主が出て来たよ。で、みると二人の者がひっついていたから、「どうした、お前たち。」「私らは乞食なんですが、何かあったら恵んで下さい。」 「お前たちは少し様子がおかしいが、どういうわけなのか。」「実は、妻が赤子を産んでいるんですよ。」「ええ、そうだったのか。」もうその方は、貧乏人を助ける人だから、これたちにお粥も炊いてきてくれてよ、そうして、着物もなんでも持ってきて上げてやって、「で、それではこれを食べなさい。またこれを着なさいね。」そうしていて、その主は、「それで、子どもの名前は付けたかな。どんな名前を付けたのか。」とまたその方が言ったら、「はい、付けました。」「何と名を付けたか。」「もうこれだけの家の門の下で産まれておりますから、ジョーガニーって名前をつけましたよ。」と言ったから、そのジョウガニーと言う名前は、もう天で聞いた名と合っているわけ。「あっはあ、そうだ。これの食いぶんで私達は、金持ちになったんだなあ。」と分かって、それが乞食の子なんだよ。そうだから、人間の徳と言うのは、生まれながらにして、生まれる時に決まっているのさ。「そうだ。そんならここの家の主は、この赤子なのだから、家へ入りなさい。」と言って、その乞食の親子を家へ入れてさ、話などを聞かせたそうだ。そうして、その家で、その赤子を一緒に育たら、まあその家の財産は、その子のクエブーなんだから、そこの家は、もっと大きく金持ちになって、それからも貧しい者に分けて与えたと言う話。これが一日クエブーの話さ。

再生時間:8:47

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民話詳細DATA

レコード番号 47O361884
CD番号 47O36C071
決定題名 鉄門の福分(シマグチ)
話者がつけた題名 一日クウェーブーの話
話者名 玉城安亀
話者名かな たまきあんき
生年月日 18981005
性別
出身地 沖縄県北中城村字喜舎場98
記録日 19811213
記録者の所属組織 沖縄口承文芸学術調査団
元テープ番号 北中城村補足調査1班T37A02
元テープ管理者 沖縄伝承話資料センター
分類 本格昔話
発句(ほっく)
伝承事情
文字化資料 北中城の民話 P434
キーワード ジョーガニー,クエブー,鉄門の福分
梗概(こうがい) 一日の食い分というたいそう働き者がおったそうだが、この人は働いて明日の物といって蓄えておいても翌日起きたらいつのまにかなくなっていた。薪さえも取ってきて天井に上げておくと翌日起きて見たら、その持って来た薪がないのさ。そいつは頑丈者で働き者だから、「これは、もうまた薪盗人が私の物盗んでいるな。ぜひこいつを捕まえてみせる。」と言って、もう次の日にまた薪を取って来て、盗みに来たら捕まえようと、「そうはさせないよ。今度こそきさまら盗人が来たら捕まえるからね。」と薪の中に自分も一緒に束ねて、薪とともに天井で寝ているわけ。そして、翌日起きたら自分の知らないところに来ているようだね。「ここはどこだ。不思議なものだ。」と目をきょろきょろしていたら、昔の大官の方々がお座りになっていらしたそうだ。自分はそこの座敷で、もう目をきょろきょろさせて、「あれ、私は天井に寝ていたのに、どうしてこうなっているのかな。」と考えたが、もうどんなに考えても考えられないのさ。そうしたら、後でそこの係官らしき人がいらして、「きさまはなんでここに来ているのだ。どこのどいつだ。」「不思議なことでございます。私はなぜ、いつのまにここにきているのでしょうか。」ともう戸惑っていたそうだよ。分からないのですから、「おい、お前はそこに来ているが意味が分からんか。」「分かりませんですね。お聞かせ下さい。」「ここは、この天のお役所なんだよ。」とおっしゃった。「ええ、役所。どうして私は悪いことしていませんのに、ここへしょっ引かれたのかなあ。」「お前をしょ引いたのではない。ただ薪といっしょに寝てたからここへ巻き上げられたわけなんだよ。」と言うから、「ああ、そうなんですか、これはもう私は考えても考えられませんねえ。だって、これは私の薪ですから、そこで、一緒に寝ていたのだし、なぜこうしてここにしょっ引いていらしたのやら。」そいつはもうしょっ引っかれたと考えている。「んん、お前には、それが分からんだろう。言ってきかせようね。お前は、皆も働き者と分かって感心しているがね、人は生まれたときから、生まれ徳と言うのがあるんだが、その徳がお前のは少ないんだよ。」と、おっしゃったのさ。「え、そうなのですか。それは、もう生まれ徳が少ないから、私は幾ら働いても、だめなんですか。おかしなことですね。」「うん、それはその各々のクエブーあるから。」そいつは、自分のクエブーが分からないのだからなあ、「そうだ。それでは、その私のクエブーがどれだけあるのか見せてください。」と、自分のクエブー見に行ったようだ。「これはお前のクエブーさ。」と言われて見たら、もう自分のクエブーは、小さな入れ物の真ん中の下のほうにほんの少しだったようだね。そして、「これは誰のクエブー、これは誰のクエブー。」と言って見せてもらったら、みんな自分のものよりとっても大きいんだよ。後は、一番たくさんの盥の中にあるクエブーになったようだ。そう、一番大きいのを見せてもらった。「そうするとこれは誰のクエブーでしょうか。」「はい、これはそのまだ生まれていませんがね。名はジョーガニーと言う人のクエブーですよ。」「ああ、そうなんですか。そんなら、それが生まれるまでの間、そのまだ生まれていないジョーガニのクエブーを貸して下さい。生まれたらまた返しますよ。」と言ってお願いしたようだな。「はい、よろしい。それなら、お前は心がいいから、貸してやるから、そのジョーガニーという人が生まれたら返しなさいよ。」「はい。」と言ってよ、そこで約束をして、「それならよしいまた働きなさいよ。」とそこから、出向かわされて帰って来たそうだよ。この一日クエブーという男は、もうとても働き者だからもう、それからは、働いただけ全部実になって貯蓄をして、立派に大金持ちなった。そうしてもう、首里あたりか分からないが、金はたくさんあるのだから、ちょうど守礼之門のように家の門も造ってさ、そうしていたて、貧乏者を良く助けたようだ。あるとき、乞食の夫婦がそこの家に物乞いしに来ているわけ。妻は妊娠しているのさ。そして、もう昔なのだからね、妊娠しても誰も見られないさ。そうして、その金持ちの家にやって来たら、産み月にはいっているから、いつも身体が重いのでしょう。その家の門の下で、夫婦が二人ともそろって寝てよ、そうするうちに、その家の門の下で赤子を産み落としてよ。赤子を産んでから、もうそれでも二人で、やはり乞食だから他人にお願いして、着物などをもらっていたさ。その着物に赤子をくるんでいるうちに、いい時間になったら、そこの家の主が出て来たよ。で、みると二人の者がひっついていたから、「どうした、お前たち。」「私らは乞食なんですが、何かあったら恵んで下さい。」 「お前たちは少し様子がおかしいが、どういうわけなのか。」「実は、妻が赤子を産んでいるんですよ。」「ええ、そうだったのか。」もうその方は、貧乏人を助ける人だから、これたちにお粥も炊いてきてくれてよ、そうして、着物もなんでも持ってきて上げてやって、「で、それではこれを食べなさい。またこれを着なさいね。」そうしていて、その主は、「それで、子どもの名前は付けたかな。どんな名前を付けたのか。」とまたその方が言ったら、「はい、付けました。」「何と名を付けたか。」「もうこれだけの家の門の下で産まれておりますから、ジョーガニーって名前をつけましたよ。」と言ったから、そのジョウガニーと言う名前は、もう天で聞いた名と合っているわけ。「あっはあ、そうだ。これの食いぶんで私達は、金持ちになったんだなあ。」と分かって、それが乞食の子なんだよ。そうだから、人間の徳と言うのは、生まれながらにして、生まれる時に決まっているのさ。「そうだ。そんならここの家の主は、この赤子なのだから、家へ入りなさい。」と言って、その乞食の親子を家へ入れてさ、話などを聞かせたそうだ。そうして、その家で、その赤子を一緒に育たら、まあその家の財産は、その子のクエブーなんだから、そこの家は、もっと大きく金持ちになって、それからも貧しい者に分けて与えたと言う話。これが一日クエブーの話さ。
全体の記録時間数 9:03
物語の時間数 8:47
言語識別 方言
音源の質
テープ番号
予備項目1

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