この話はですね、ある小さな男の子の話なんですがね、若い十二か、十三ぐらいの男の子だけど、この男がね、とっても勉強家だったって。それで、勉強していたら、昔は、普通、侍の子というのはね、生まれた時期から許嫁を決めていたぐらいだから、だから、「この子にも許嫁を決めてやろう。」と親が言ってね、決めようとしたら、この男の子は、まだ十二、三にしかならないから、色気もなにもないでしょう。それで、親が許嫁って言ったからよ、「私は勉強したほうがいい。」と言っていたんですがね、そのころは、親が言うのは、いやとは言えないでしょう。もう家にいたら、毎日、「許嫁、許嫁。」と言われて、縁組の話があるから、首里の北森に上って行って、毎日もう勉強していたんですよ。北森には、今は家がありますけど、そのころは家もなく静かなところですからね。それで、北森で勉強してね、もう遅くなってきたら、「ただいま。」と言って、家に帰って来たら、「どうしたのか。お前はどこに行っていたのか。今日はね、いい縁組の話があったのにな。」と親が言うから、「はい、そうでしたか。失礼しましたねえ。」と言って、また翌日も早く起きて、本をひっ下げて、また北森に登って行って、勉強していたんだよ。そしたらね、北森のそばに水溜まりがあったっていいますね。昔はね、若いうちは、大人の小さいカタカシラではないね、ウチナーンカンプーといって、ジーファーを差してね、結っていたんですよ。これは、十三になったら切るさ。だから、この子もこのウチナーカンプーを結っているから、それを直そうと水溜まりをこんなにしてのぞいて見たら、「ハッサミヨー、きれいな女だねえ。この女の子を水たまりの中から助けないといかんねえ。」と自分の姿が水に映っているんだが、それを見て驚いてね、助けようとするんだが、ぜんぜん助けることかできない。ハアーとため息をついていたらしい。そうしてね、自分の姿なんだけど、もう惚れてしまってね、毎日、その水溜まりに廻って来て、勉強しながら見とれて、こんなに日があるうちは明るいから水に姿が映るでしょう。だから、これを見て勉強して、「世の中にはこんなきれいな女がいるんだねえ。」と言ってからね、こんなに見とれていて、日が暮れるとまた家に帰ったりしていたんでしょうね。そうしているうちに、またも縁組の話が出たらね、「ああ、私は思っている女がいるがね。あの人とは一緒にさせないで、どうしても私が好いていない人と結婚させるのかねえ。」と言って心配してね、もう病になって熱を出して寝ているんですよ。それで、お父さん、お母さんが、「どうしたか、どこか痛いか。どんな具合か。」と言うと、「どこも痛くないが、私は頭がおかしくなっています。」「どうして、そんなに何か思うことがあるのか。」と言うから、「ううーん。」と言っているとですね、「さあ、好きでない人を無理強いしてまで許嫁にはしないからね、思う人がいるなら言いなさい。」と言って、もうお父さん、お母さんに勧められたから、「それじゃあ、私を怒らないでくださいよ。私が毎日北森に通って勉強しているのは、向こうにね、とってもきれいきれいな女がいて、その人が私と会ってくれているんです。もうどこを捜してもあんなにきれいな女は、この世間にはいません。神であるのかとさえ思うぐらい、きれいな女の人が来るんです。私はその女のことを思って、病気になっているんです。」「ああ、そうだったか。お前は、病気になるほど、その女を妻にしたいのか。」「はい、私は一人前になって成功したらあの女と結婚します。」「そうか、そんなら私たちを連れて行って、私たちにもその女を見せなさい。」「それじゃあ、私と一緒に行かれますか。」と言って、親を連れて行ったんでしょうね。連れて行ったから、この男の子は自分の姿が映ったのを、「ほら、ごらんなさい。きれいな女でしょう。」と言ったから、この親たちも水に映っているのを知らないんだよ。「不思議だねえ、きれいねえ。」と言ってよ、もう不思議に思っているんだよ。「これは、どうなっているのかな。キジムナーかなにかに騙されているのかね。」って親たちは考えてまたこれをずっと見つめていたら、その子の姿があるんですよ。「ほらねえ、きれいでしょう。」と男の子が言うとね、「お前が惚れるのはむりないねえ。」と母親は言われたが、父親は考えてね、「これは、何かに騙されていないのかね、ものも言わないし、ただ姿が写るだけだから不思議だ。」と言って、すぐこの男の子がうつむいて、水の中を見とれているときに石を取ってね、ポンって投げたらね、水は動くでしょう。動いてからに姿はなくなったんですよ。それで、父親が、「ほら見なさい。この女はいないじゃないか。」と言ったね、「アッキョー、今のは何だったのでしょう。なんだったのかなあ。」と言ってからですね、それから、この女をあきらめてね、帰ったそうですね。家に帰ってから、「なんだったのかね、それじゃ私は化け物を見ていたのかね。」と言ってからね、それからね、その女のことをあきらめて、もうまた勉強をとってもしたんでしょう。そうしたら、父親がね、「これ考えてみないとなあ。あれは私の子どもの姿と似ていたがね。どうしたら姿が写るかな。」と言ってね、父親がガラスの割れたのを捜して来てね、赤瓦をすってね、後ろに塗って染めるようにしたらね、このガラス割れたものはね、鏡と同じになるから姿が現れるでしょう。「あはあ、あれは水鏡だったんだな。さあ、それじゃあ。」と言ってね、子どもに見せたって。そうしたら、そのガラスの割れたのに自分の姿が写ったから、その子は、「そう、これです。」と言うと、「これはお前だよ。」と父親が言ったから、「へええ、そうだったのか。」というふうに本当のことが分かってがっかりしたっていうんですね。それから、沖縄に鏡というのが出来たっていうことですよ。
| レコード番号 | 47O361572 |
|---|---|
| CD番号 | 47O36C060 |
| 決定題名 | 鏡の話(シマグチ) |
| 話者がつけた題名 | - |
| 話者名 | 名嘉真敏子 |
| 話者名かな | なかまとしこ |
| 生年月日 | 19120429 |
| 性別 | 女 |
| 出身地 | 沖縄県那覇市首里 |
| 記録日 | 19810926 |
| 記録者の所属組織 | 沖縄口承文芸学術調査団 |
| 元テープ番号 | 北中城村字荻堂調査3班T23A01 |
| 元テープ管理者 | 沖縄伝承話資料センター |
| 分類 | 本格昔話 |
| 発句(ほっく) | - |
| 伝承事情 | - |
| 文字化資料 | 北中城の民話 P413 |
| キーワード | 許嫁,鏡,嫁取り,結婚 |
| 梗概(こうがい) | この話はですね、ある小さな男の子の話なんですがね、若い十二か、十三ぐらいの男の子だけど、この男がね、とっても勉強家だったって。それで、勉強していたら、昔は、普通、侍の子というのはね、生まれた時期から許嫁を決めていたぐらいだから、だから、「この子にも許嫁を決めてやろう。」と親が言ってね、決めようとしたら、この男の子は、まだ十二、三にしかならないから、色気もなにもないでしょう。それで、親が許嫁って言ったからよ、「私は勉強したほうがいい。」と言っていたんですがね、そのころは、親が言うのは、いやとは言えないでしょう。もう家にいたら、毎日、「許嫁、許嫁。」と言われて、縁組の話があるから、首里の北森に上って行って、毎日もう勉強していたんですよ。北森には、今は家がありますけど、そのころは家もなく静かなところですからね。それで、北森で勉強してね、もう遅くなってきたら、「ただいま。」と言って、家に帰って来たら、「どうしたのか。お前はどこに行っていたのか。今日はね、いい縁組の話があったのにな。」と親が言うから、「はい、そうでしたか。失礼しましたねえ。」と言って、また翌日も早く起きて、本をひっ下げて、また北森に登って行って、勉強していたんだよ。そしたらね、北森のそばに水溜まりがあったっていいますね。昔はね、若いうちは、大人の小さいカタカシラではないね、ウチナーンカンプーといって、ジーファーを差してね、結っていたんですよ。これは、十三になったら切るさ。だから、この子もこのウチナーカンプーを結っているから、それを直そうと水溜まりをこんなにしてのぞいて見たら、「ハッサミヨー、きれいな女だねえ。この女の子を水たまりの中から助けないといかんねえ。」と自分の姿が水に映っているんだが、それを見て驚いてね、助けようとするんだが、ぜんぜん助けることかできない。ハアーとため息をついていたらしい。そうしてね、自分の姿なんだけど、もう惚れてしまってね、毎日、その水溜まりに廻って来て、勉強しながら見とれて、こんなに日があるうちは明るいから水に姿が映るでしょう。だから、これを見て勉強して、「世の中にはこんなきれいな女がいるんだねえ。」と言ってからね、こんなに見とれていて、日が暮れるとまた家に帰ったりしていたんでしょうね。そうしているうちに、またも縁組の話が出たらね、「ああ、私は思っている女がいるがね。あの人とは一緒にさせないで、どうしても私が好いていない人と結婚させるのかねえ。」と言って心配してね、もう病になって熱を出して寝ているんですよ。それで、お父さん、お母さんが、「どうしたか、どこか痛いか。どんな具合か。」と言うと、「どこも痛くないが、私は頭がおかしくなっています。」「どうして、そんなに何か思うことがあるのか。」と言うから、「ううーん。」と言っているとですね、「さあ、好きでない人を無理強いしてまで許嫁にはしないからね、思う人がいるなら言いなさい。」と言って、もうお父さん、お母さんに勧められたから、「それじゃあ、私を怒らないでくださいよ。私が毎日北森に通って勉強しているのは、向こうにね、とってもきれいきれいな女がいて、その人が私と会ってくれているんです。もうどこを捜してもあんなにきれいな女は、この世間にはいません。神であるのかとさえ思うぐらい、きれいな女の人が来るんです。私はその女のことを思って、病気になっているんです。」「ああ、そうだったか。お前は、病気になるほど、その女を妻にしたいのか。」「はい、私は一人前になって成功したらあの女と結婚します。」「そうか、そんなら私たちを連れて行って、私たちにもその女を見せなさい。」「それじゃあ、私と一緒に行かれますか。」と言って、親を連れて行ったんでしょうね。連れて行ったから、この男の子は自分の姿が映ったのを、「ほら、ごらんなさい。きれいな女でしょう。」と言ったから、この親たちも水に映っているのを知らないんだよ。「不思議だねえ、きれいねえ。」と言ってよ、もう不思議に思っているんだよ。「これは、どうなっているのかな。キジムナーかなにかに騙されているのかね。」って親たちは考えてまたこれをずっと見つめていたら、その子の姿があるんですよ。「ほらねえ、きれいでしょう。」と男の子が言うとね、「お前が惚れるのはむりないねえ。」と母親は言われたが、父親は考えてね、「これは、何かに騙されていないのかね、ものも言わないし、ただ姿が写るだけだから不思議だ。」と言って、すぐこの男の子がうつむいて、水の中を見とれているときに石を取ってね、ポンって投げたらね、水は動くでしょう。動いてからに姿はなくなったんですよ。それで、父親が、「ほら見なさい。この女はいないじゃないか。」と言ったね、「アッキョー、今のは何だったのでしょう。なんだったのかなあ。」と言ってからですね、それから、この女をあきらめてね、帰ったそうですね。家に帰ってから、「なんだったのかね、それじゃ私は化け物を見ていたのかね。」と言ってからね、それからね、その女のことをあきらめて、もうまた勉強をとってもしたんでしょう。そうしたら、父親がね、「これ考えてみないとなあ。あれは私の子どもの姿と似ていたがね。どうしたら姿が写るかな。」と言ってね、父親がガラスの割れたのを捜して来てね、赤瓦をすってね、後ろに塗って染めるようにしたらね、このガラス割れたものはね、鏡と同じになるから姿が現れるでしょう。「あはあ、あれは水鏡だったんだな。さあ、それじゃあ。」と言ってね、子どもに見せたって。そうしたら、そのガラスの割れたのに自分の姿が写ったから、その子は、「そう、これです。」と言うと、「これはお前だよ。」と父親が言ったから、「へええ、そうだったのか。」というふうに本当のことが分かってがっかりしたっていうんですね。それから、沖縄に鏡というのが出来たっていうことですよ。 |
| 全体の記録時間数 | 6:45 |
| 物語の時間数 | 6:23 |
| 言語識別 | 方言 |
| 音源の質 | ○ |
| テープ番号 | - |
| 予備項目1 | - |