ある唐船の話だがね、恩納岬の沖合いで難破し、それで二人は死んでしまった。比屋根という所に黄金を積んだまま埋められてしまった。福建省の何というお方だったか、下の名前はわかるのだが姓がわからない。きっと福建省の人にちがいないのだが。一人は名護の屋部に泳ぎ着いた。その人は脈を取るのが上手だったので、人々が風邪をひくと、「あの屋部を連れて来て脈を取らしてごらん。」と。その人の本当の名前は知らず、名護の屋部で脈を取る人になったので、そして、その屋部という人は大宜味、辺土名へ高里という村へ脈を取りに行ってみたら、もう、正月、大晦日というのに、火だけそこにともし、御馳走の準備はされてなかった。火が燃えていて、火だけを囲んでいたので、それで屋部という人が、「どうして、今日は大晦日だというのに、御馳走を前にしないで、火だけを囲んでいるのか。」ときくと、「もう食べる物もなく、火で正月を迎えるのです。」と。火正月をするということは今のような事から出たものです。「ああ、そうか。」と。そのようなわけがあったのか、それで「寝ている子供はどうして寝ているのですか。」「ああ、風邪のようであります。」「それでは脈を取ってみよう。」と言った。「死んでいるよ。」と告げた。「困った事になった、どのようにしたらよろしいでしょうか。」と母親は言った。「どれ、貴方達の脈を取ってみよう。貴方達夫婦も死人のような脈である。」夫婦はびっくりして「えっ!」と。ヤブーは「どれ、自分の脈も取ってみよう。」と脈を取った。「これは大変なことだ。この家に住んでいると、私達全員死んでしまうので、ここから移ることにしよう。」と。移って来て、三日目に大きな山が崩れ落ち、高里という村の人々は皆うまってしまった。その人達もそこにいたなら死んでしまっていたはずだよ。そこは人のない所と言う。高里と言うと人が全滅した部落とも言われている。それから、もう、山崩れも落ち着いて、皆が集まったので、「私達もあそこに居たならば、死んでいたのだが難を逃れ若返ったので、若水を迎えることにしよう。」と言った。それから正月元旦に若水を汲むようになった。大晦日の翌日は元旦でしょう。だから、元旦に若水を汲むようになったのも、このことがあってからだそうだ。「さあ早くお年玉も百あげなさい。」と。お年玉は今はたくさん貰えるでしょうが、昔のお年玉は二厘だったんですよ。二厘には百とも言っていた。それを藁しべに通し、私達までもお年玉を貰ったものだ。これも若水と共に、あれから出ているのです。それから、屋部という人の噂を公儀のお城にいる王様がお聞きになり、脈を取るのが上手だというので、「屋部よ、あなたは脈を取るのが上手だと聞いているから、お城に来て脈を取ってみてくれないか。」と頼むと、「はい」と答えたので、家来の人が屋部を連れに来た。するとヤブーは「そうか、王様に話してあるんですね。」「そうだ」「王様の脈を取ってくれ。」「行きましょう。」と。そして一緒に行ってみると、御城の二階には上がらずに、あそこでは猫の足を縛り、その糸をたらし、糸を通して脈を取ったので、「ああ、王様は猫のような脈をしているのですね。」と申し上げると、「こいつめ!」と怒ったようである。これが本当に見分けられるかと家来が刃を向けると、屋部は「殺してくれ。」と言った。「さあ屋部よ、あなたは立派な屋部で脈取りが上手である。あれは王様の脈ではなく、猫の脈であるぞ。」「そうでしょう。」と屋部は言った。それからというもの、「あなたは脈をとるのが上手だから、国の、この沖縄でお城務めをさせよう。」と王様が言われた。「ありがとうございます。」とヤブーは言った。 それからお城務めをするようになり、家来たちの脈取りに行かれた。その途中で草刈りが三人、男の人達がやって来た。一人の男は他の二人より年下であったらしい。〈そして、屋部さんは後に名前を桑田だと聞いたが。〉(その人たちが)桑田という人は脈をとるのが上手だと言うので、まず試してみようということになった。年下の者は急にお腹が痛いとあちらでお腹をおさえて、そして「お腹が痛いよう」と言い、足をバタバタしなさいと、年上の人達から言われた。そして年下の者は年上の人が言ったことを守って足をバタバタさせたそうだ。「桑田さん」「はい」「この若者は、急にお腹が痛いと言うのですが、脈をとってみて下さいませんか。」と頼むと、「死んでいるので、担いで連れて帰りなさい。」といわれた。「なあんだ、桑田さんは脈を取るのが上手だとおっしゃいますが、生きている人間に対して死んでいると言われるのですか。」と若者が言った。「それじゃ、起こしてごらん。」と言われた。起こしてみると、本当に死んでいたので担いで行ったそうだ。この桑田さんがなすことは神業だったようだね。おわり。
レコード番号 | 47O370336 |
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CD番号 | 47O37C015 |
決定題名 | ヤブー医者の始まり(方言) |
話者がつけた題名 | ヤブーの話 |
話者名 | 金城太郎 |
話者名かな | きんじょうたろう |
生年月日 | 18860920 |
性別 | 男 |
出身地 | 沖縄県読谷村長浜 |
記録日 | 19761031 |
記録者の所属組織 | 読谷村民話調査団第5班 |
元テープ番号 | 読谷村長浜T06B04 |
元テープ管理者 | 読谷村立歴史民俗資料館 |
分類 | 伝説 |
発句(ほっく) | - |
伝承事情 | - |
文字化資料 | 父から24、5歳の頃聞いた |
キーワード | 唐船,恩納岬,難破,二人は死んでしまった,比屋根,碑文,黄金,福建省,名護の屋部に泳ぎ着いた,脈取り名人,大宜味,辺土名,高里,正月,大晦日,火正月,子供は風邪,元旦に若水を汲む,昔のお年玉は二厘,公儀の王様,猫の脈,草刈りが三人,桑田,神業 |
梗概(こうがい) | ある唐船の話だがね、恩納岬の沖合いで難破し、それで二人は死んでしまった。比屋根という所に黄金を積んだまま埋められてしまった。福建省の何というお方だったか、下の名前はわかるのだが姓がわからない。きっと福建省の人にちがいないのだが。一人は名護の屋部に泳ぎ着いた。その人は脈を取るのが上手だったので、人々が風邪をひくと、「あの屋部を連れて来て脈を取らしてごらん。」と。その人の本当の名前は知らず、名護の屋部で脈を取る人になったので、そして、その屋部という人は大宜味、辺土名へ高里という村へ脈を取りに行ってみたら、もう、正月、大晦日というのに、火だけそこにともし、御馳走の準備はされてなかった。火が燃えていて、火だけを囲んでいたので、それで屋部という人が、「どうして、今日は大晦日だというのに、御馳走を前にしないで、火だけを囲んでいるのか。」ときくと、「もう食べる物もなく、火で正月を迎えるのです。」と。火正月をするということは今のような事から出たものです。「ああ、そうか。」と。そのようなわけがあったのか、それで「寝ている子供はどうして寝ているのですか。」「ああ、風邪のようであります。」「それでは脈を取ってみよう。」と言った。「死んでいるよ。」と告げた。「困った事になった、どのようにしたらよろしいでしょうか。」と母親は言った。「どれ、貴方達の脈を取ってみよう。貴方達夫婦も死人のような脈である。」夫婦はびっくりして「えっ!」と。ヤブーは「どれ、自分の脈も取ってみよう。」と脈を取った。「これは大変なことだ。この家に住んでいると、私達全員死んでしまうので、ここから移ることにしよう。」と。移って来て、三日目に大きな山が崩れ落ち、高里という村の人々は皆うまってしまった。その人達もそこにいたなら死んでしまっていたはずだよ。そこは人のない所と言う。高里と言うと人が全滅した部落とも言われている。それから、もう、山崩れも落ち着いて、皆が集まったので、「私達もあそこに居たならば、死んでいたのだが難を逃れ若返ったので、若水を迎えることにしよう。」と言った。それから正月元旦に若水を汲むようになった。大晦日の翌日は元旦でしょう。だから、元旦に若水を汲むようになったのも、このことがあってからだそうだ。「さあ早くお年玉も百あげなさい。」と。お年玉は今はたくさん貰えるでしょうが、昔のお年玉は二厘だったんですよ。二厘には百とも言っていた。それを藁しべに通し、私達までもお年玉を貰ったものだ。これも若水と共に、あれから出ているのです。それから、屋部という人の噂を公儀のお城にいる王様がお聞きになり、脈を取るのが上手だというので、「屋部よ、あなたは脈を取るのが上手だと聞いているから、お城に来て脈を取ってみてくれないか。」と頼むと、「はい」と答えたので、家来の人が屋部を連れに来た。するとヤブーは「そうか、王様に話してあるんですね。」「そうだ」「王様の脈を取ってくれ。」「行きましょう。」と。そして一緒に行ってみると、御城の二階には上がらずに、あそこでは猫の足を縛り、その糸をたらし、糸を通して脈を取ったので、「ああ、王様は猫のような脈をしているのですね。」と申し上げると、「こいつめ!」と怒ったようである。これが本当に見分けられるかと家来が刃を向けると、屋部は「殺してくれ。」と言った。「さあ屋部よ、あなたは立派な屋部で脈取りが上手である。あれは王様の脈ではなく、猫の脈であるぞ。」「そうでしょう。」と屋部は言った。それからというもの、「あなたは脈をとるのが上手だから、国の、この沖縄でお城務めをさせよう。」と王様が言われた。「ありがとうございます。」とヤブーは言った。 それからお城務めをするようになり、家来たちの脈取りに行かれた。その途中で草刈りが三人、男の人達がやって来た。一人の男は他の二人より年下であったらしい。〈そして、屋部さんは後に名前を桑田だと聞いたが。〉(その人たちが)桑田という人は脈をとるのが上手だと言うので、まず試してみようということになった。年下の者は急にお腹が痛いとあちらでお腹をおさえて、そして「お腹が痛いよう」と言い、足をバタバタしなさいと、年上の人達から言われた。そして年下の者は年上の人が言ったことを守って足をバタバタさせたそうだ。「桑田さん」「はい」「この若者は、急にお腹が痛いと言うのですが、脈をとってみて下さいませんか。」と頼むと、「死んでいるので、担いで連れて帰りなさい。」といわれた。「なあんだ、桑田さんは脈を取るのが上手だとおっしゃいますが、生きている人間に対して死んでいると言われるのですか。」と若者が言った。「それじゃ、起こしてごらん。」と言われた。起こしてみると、本当に死んでいたので担いで行ったそうだ。この桑田さんがなすことは神業だったようだね。おわり。 |
全体の記録時間数 | 6:48 |
物語の時間数 | 6:48 |
言語識別 | 方言 |
音源の質 | ◎ |
テープ番号 | - |
予備項目1 | - |