幽霊と枡の角(シマグチ)

ゆうれいとますのかど

概要

これはよ、昔、首里の侍がある下男を使っていたんだってよね。その下男はよ、那覇の方に買い物しにたびたび行って、八百屋ね、野菜屋、そこによく行ったって。そして、そこで野菜を買ったり、ネギを買ったりしてよ、そのうちにそこの女店員の女の子と仲良くなってね。そうしていたんだが、このネギを買ってきたらよ、根は切って、主人の屋敷内の畑に植えてよ、手入れして、ネギもよくできたんだって。それで、ネギがよ、もう相当できたときによ、その女が仲が良いから下男に忍んできたようだ。すると、このネギ畑に入っているのをこの下男が見てよ、「盗人だぞう。野菜盗人だぞう。」と叫んだからよその女はもうそれは、実は野菜盗みに来たつもりではないけどね、まあ男忍びに来たんだがね、「もう盗人の名が立ってはこの世の中には生きてはいられない。」と言って、その女は死んだようだ。死んだからよ、それで今度はその女が死んだ後から、もう月日は流れて、そうしているうちによ、まあ、「どこどこの娘と相談をして、何月何日に結婚させるから親方からひまをもらって家に帰ってきなさい。」と言って手紙が来たからよ、その下男は、「実は親元からこういう手紙がきたからね、もう親方ひまをください。」ともう主人にお願いしたようだ。その主人の言い分は、「よし、ひまはくれてやるがな、お前と仲良くなっていた女がこの前ネギ畑に入って入っているところを、お前が盗人だぞうと言ったので、その女はもう盗人の名が立ってはこの世の中にはいられないと言ってもう自殺して死んでいるから、その女が入っている墓はどこそこにあるから、私が今日はツタの絵をかくから、そのツタの絵を持っていって墓の上に張ってこいよ。」と、その主人が下男に教えたので、その下男は、もう主人の言うとおり、ツタの絵を持って女が埋められている墓に行ったようだ。行って墓の上にツタの絵を張って、その下男ね、もう墓のそばに隠れていたんだってよ。それで、隠れていると、墓の中から幽霊が出て、このツタの絵を見て、「もうこの私が死んでから、何年何年になるが、ここに生えるまで男はここを通らないから、もう来ないのだろう。」と言って、また墓にこの幽霊は入っていったそうだ。それを見て、この下男は主人の所に行ってよ、「実はね、こんなことがございました。」と言うと、さあ、竹の絵を持ってまたこの墓に行って張って、そばに隠れていると、また墓から幽霊が出てきて、「ははあ、これは竹もこんなに生えているし、もう何十年もたっているから、あの男はもうこの道は通らんのだろう。」と言って、墓にまた入っていったんだってよ。それで、この下男はまた主人の所に行って、それを報告したら、「はい、それならもう大丈夫だから自分の村へ行き、妻をもらってまた結婚してまた来いよ。」と主人が教えるんだ。「しかし、行く道中ではどんなことがあってもね、寄らないで真っ直ぐ村に戻れよ。」と言ったので、その下男も「はい。」と言って、ここからひまをもらって行ったようだ。そして行く途中に、大雨が降ったので、岩の下で雨宿りをして隠れていたんだってよ、それで、雨があがるまでと岩の下に隠れている途中にその下男は主人が言ったことばを思い出して、「ははあ、これはもうどんなことがあってもどこも寄らないで、まっすぐ行けと言っていた。」と、これを思い出してよ、この崖から出ると、この下男が崖から出るのと同時に、岩がくずれるんだ。「ははあ、なるほど、主人が言うのは本当なんだなあ。」と言って、それで、それから、もう自分の村に帰っていく途中、山の上で、もう火もバンバン燃えて、ここで、「助けてくれえ。」と呼ぶ女がいたそうだよ。それでこの下男は、「不思議なものだ、あんな山の上でよ、火もバンバン燃えるが、女が『助けてくれえ』と呼ぶが、不思議なものだ。」と助けに行くとよ、この死んだ女が幽霊になって出ていたそうだよ。それで、この男はびっくりしてよ、「なんでお前はここに立っているんだ。」と言うと、「実はねえ、私はこの世で死んだのであんたが村へ帰るのを待っていて、あんたの命を取ろうとここに立っているんだ。」と言うので、その男もあとは、「親からよ、『妻ももらって結婚させるので来い』と手紙がきていま家に行く途中だから、私は結婚をすませて、何月何日の何時ごろまたここに来るからもうこれだけは聞いてくれ。」と言ったからよ、その幽霊も、「それならいい。」と言ってよ、「何月何日の何時ごろここに来いよ。」と約束してよ、その男は村に帰ったようだ。村に帰って結婚もしてよ、もう四、五日、一週間たって、その男は非常に心配してよ、もう黙ってものも言わなかったそうだよ、それで妻が、「どうしてあなたはこうして結婚もして、おめでたいことなのに、そんなに心配しているの。」と言うと、「ああ、実は私が首里の主人の所で働いているときに私と仲良くなっていた女が、もう死んでしまって、それで私が今日ここを通ると、私の命を取ろうとして、待ちぶせしているので、それなら私はもう家で結婚して、すませてから来るから、もう何月何日何時ごろまで待ってくれと言うと、もう日にちも一日一日せまってきているから、もうそれを心配して私は黙っているんだ。」と妻に話すと、その妻は、「そんなことは心配しなくてもいいよ。大丈夫私が返すから、それで、その日にちになったら私も一緒に行くから。」と言ってよ、妻もその場所に何月何日何時ごろ来いとの約束だから、一緒に行ったようだ。すると、そのまた幽霊も待っていたと。行くともうその幽霊はよ、こういうこんな四角の枡のような箱を持っていたというよ。妻がよ、「ねえ、あなたがそこに持っているのはよなに。」と言うと、「はあ、これは非常に宝になる箱。」と幽霊が言ったと。「そしたら、どんなこと。」と言うと、「この箱の角を三回ぶって、パンとすると、あんたもう御馳走食べたければ御馳走が出てくるよ。」と言ったようだ。「すると、この角はなに。」ときくと、「この角はあんたが音楽聞いたり、それから踊りを見たければ、その角を打つと、またここから三味線の音やら、もう踊りが出てきて、非常に楽しみできる角。」と言ったようだ。それで、「もうひとつの角はなに。」ときくとよ、これはまた、「君が銭を欲しいと、もう銭金が出る角。」と言ったようだ。あとは、三つの角は教えたが、あとひとつの角は言わなかったと。じゃあ、「この角はなに。」と言うと、もう教えないよ。「もし、この角をあんたが教えたら私の夫はあんたに今日はくれてやるが、この角のこと教えないというなら私の夫はあんたに今日はくれてやらないよ。」と言うと、この幽霊はよ、「その角は、幽霊とか魔物とか、それを退治する角。」と言うと、そのときに妻が箱を奪い取って、その角でバンバンこの幽霊をたたくとよ、この幽霊はもういなくなって、それで夫の命は助かったということ。だから、この四つ角のあるものでは無理に人を打つものではないというむかしのことばがあるわけ。

再生時間:6:30

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民話詳細DATA

レコード番号 47O376546
CD番号 47O37C265
決定題名 幽霊と枡の角(シマグチ)
話者がつけた題名
話者名 石川元助
話者名かな いしかわげんすけ
生年月日 19130707
性別
出身地 沖縄県恩納村谷茶
記録日 19810127
記録者の所属組織 沖縄口承文芸学術調査団
元テープ番号 恩納村T48A03
元テープ管理者 沖縄伝承話資料センター
分類 本格昔話
発句(ほっく)
伝承事情 父親が谷茶大工といわれるほどの優れた大工で、少年期から青年期にかけて父親からよく話を聞かされた。また友人間からの話も多い。
文字化資料
キーワード 首里の侍,下男,八百屋,仲良くなった,盗人,女は死んだ,結婚,ツタの絵,女が埋められている墓,幽霊,竹の絵,大雨,岩の下で雨宿り,山火事,四角の枡,御馳走
梗概(こうがい) これはよ、昔、首里の侍がある下男を使っていたんだってよね。その下男はよ、那覇の方に買い物しにたびたび行って、八百屋ね、野菜屋、そこによく行ったって。そして、そこで野菜を買ったり、ネギを買ったりしてよ、そのうちにそこの女店員の女の子と仲良くなってね。そうしていたんだが、このネギを買ってきたらよ、根は切って、主人の屋敷内の畑に植えてよ、手入れして、ネギもよくできたんだって。それで、ネギがよ、もう相当できたときによ、その女が仲が良いから下男に忍んできたようだ。すると、このネギ畑に入っているのをこの下男が見てよ、「盗人だぞう。野菜盗人だぞう。」と叫んだからよその女はもうそれは、実は野菜盗みに来たつもりではないけどね、まあ男忍びに来たんだがね、「もう盗人の名が立ってはこの世の中には生きてはいられない。」と言って、その女は死んだようだ。死んだからよ、それで今度はその女が死んだ後から、もう月日は流れて、そうしているうちによ、まあ、「どこどこの娘と相談をして、何月何日に結婚させるから親方からひまをもらって家に帰ってきなさい。」と言って手紙が来たからよ、その下男は、「実は親元からこういう手紙がきたからね、もう親方ひまをください。」ともう主人にお願いしたようだ。その主人の言い分は、「よし、ひまはくれてやるがな、お前と仲良くなっていた女がこの前ネギ畑に入って入っているところを、お前が盗人だぞうと言ったので、その女はもう盗人の名が立ってはこの世の中にはいられないと言ってもう自殺して死んでいるから、その女が入っている墓はどこそこにあるから、私が今日はツタの絵をかくから、そのツタの絵を持っていって墓の上に張ってこいよ。」と、その主人が下男に教えたので、その下男は、もう主人の言うとおり、ツタの絵を持って女が埋められている墓に行ったようだ。行って墓の上にツタの絵を張って、その下男ね、もう墓のそばに隠れていたんだってよ。それで、隠れていると、墓の中から幽霊が出て、このツタの絵を見て、「もうこの私が死んでから、何年何年になるが、ここに生えるまで男はここを通らないから、もう来ないのだろう。」と言って、また墓にこの幽霊は入っていったそうだ。それを見て、この下男は主人の所に行ってよ、「実はね、こんなことがございました。」と言うと、さあ、竹の絵を持ってまたこの墓に行って張って、そばに隠れていると、また墓から幽霊が出てきて、「ははあ、これは竹もこんなに生えているし、もう何十年もたっているから、あの男はもうこの道は通らんのだろう。」と言って、墓にまた入っていったんだってよ。それで、この下男はまた主人の所に行って、それを報告したら、「はい、それならもう大丈夫だから自分の村へ行き、妻をもらってまた結婚してまた来いよ。」と主人が教えるんだ。「しかし、行く道中ではどんなことがあってもね、寄らないで真っ直ぐ村に戻れよ。」と言ったので、その下男も「はい。」と言って、ここからひまをもらって行ったようだ。そして行く途中に、大雨が降ったので、岩の下で雨宿りをして隠れていたんだってよ、それで、雨があがるまでと岩の下に隠れている途中にその下男は主人が言ったことばを思い出して、「ははあ、これはもうどんなことがあってもどこも寄らないで、まっすぐ行けと言っていた。」と、これを思い出してよ、この崖から出ると、この下男が崖から出るのと同時に、岩がくずれるんだ。「ははあ、なるほど、主人が言うのは本当なんだなあ。」と言って、それで、それから、もう自分の村に帰っていく途中、山の上で、もう火もバンバン燃えて、ここで、「助けてくれえ。」と呼ぶ女がいたそうだよ。それでこの下男は、「不思議なものだ、あんな山の上でよ、火もバンバン燃えるが、女が『助けてくれえ』と呼ぶが、不思議なものだ。」と助けに行くとよ、この死んだ女が幽霊になって出ていたそうだよ。それで、この男はびっくりしてよ、「なんでお前はここに立っているんだ。」と言うと、「実はねえ、私はこの世で死んだのであんたが村へ帰るのを待っていて、あんたの命を取ろうとここに立っているんだ。」と言うので、その男もあとは、「親からよ、『妻ももらって結婚させるので来い』と手紙がきていま家に行く途中だから、私は結婚をすませて、何月何日の何時ごろまたここに来るからもうこれだけは聞いてくれ。」と言ったからよ、その幽霊も、「それならいい。」と言ってよ、「何月何日の何時ごろここに来いよ。」と約束してよ、その男は村に帰ったようだ。村に帰って結婚もしてよ、もう四、五日、一週間たって、その男は非常に心配してよ、もう黙ってものも言わなかったそうだよ、それで妻が、「どうしてあなたはこうして結婚もして、おめでたいことなのに、そんなに心配しているの。」と言うと、「ああ、実は私が首里の主人の所で働いているときに私と仲良くなっていた女が、もう死んでしまって、それで私が今日ここを通ると、私の命を取ろうとして、待ちぶせしているので、それなら私はもう家で結婚して、すませてから来るから、もう何月何日何時ごろまで待ってくれと言うと、もう日にちも一日一日せまってきているから、もうそれを心配して私は黙っているんだ。」と妻に話すと、その妻は、「そんなことは心配しなくてもいいよ。大丈夫私が返すから、それで、その日にちになったら私も一緒に行くから。」と言ってよ、妻もその場所に何月何日何時ごろ来いとの約束だから、一緒に行ったようだ。すると、そのまた幽霊も待っていたと。行くともうその幽霊はよ、こういうこんな四角の枡のような箱を持っていたというよ。妻がよ、「ねえ、あなたがそこに持っているのはよなに。」と言うと、「はあ、これは非常に宝になる箱。」と幽霊が言ったと。「そしたら、どんなこと。」と言うと、「この箱の角を三回ぶって、パンとすると、あんたもう御馳走食べたければ御馳走が出てくるよ。」と言ったようだ。「すると、この角はなに。」ときくと、「この角はあんたが音楽聞いたり、それから踊りを見たければ、その角を打つと、またここから三味線の音やら、もう踊りが出てきて、非常に楽しみできる角。」と言ったようだ。それで、「もうひとつの角はなに。」ときくとよ、これはまた、「君が銭を欲しいと、もう銭金が出る角。」と言ったようだ。あとは、三つの角は教えたが、あとひとつの角は言わなかったと。じゃあ、「この角はなに。」と言うと、もう教えないよ。「もし、この角をあんたが教えたら私の夫はあんたに今日はくれてやるが、この角のこと教えないというなら私の夫はあんたに今日はくれてやらないよ。」と言うと、この幽霊はよ、「その角は、幽霊とか魔物とか、それを退治する角。」と言うと、そのときに妻が箱を奪い取って、その角でバンバンこの幽霊をたたくとよ、この幽霊はもういなくなって、それで夫の命は助かったということ。だから、この四つ角のあるものでは無理に人を打つものではないというむかしのことばがあるわけ。
全体の記録時間数 6:30
物語の時間数 6:30
言語識別 方言
音源の質
テープ番号
予備項目1

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