もの言う牛(シマグチ) 

ものいううし

概要

私の話は、「やせ牛のからまった綱をはずせ」という題目だよ。やせ牛というのは、わかりやすく言うと、やせた牛。やせた牛のからまりをはずせといってね、このやせた牛には鼻綱があるでしょ。鼻綱。鼻綱があるから、これが木の根っこに巻いているでしょ。これをはずせという題目なんだよ。「やせ牛のからまりはずせ」というのは。これはね、昔ね、話のたびに昔々だけど、何年前かわからないんだ。金持ちの子どもと貧乏者の子どもがね、現在の中国、唐に修行しに行ったらしいんだ。そしたら、唐の偉い人が、この沖縄から行った子どもたち二人に聞いたらしいんだよ。「お前たちは、銭を千貫もらうのと、話を聞くのとどれがいいか。」と聞いたんだ。そしたら、最初に金持ちの子どもが、「私はもう話を聞くよりは、銭をもらった方がいい。」といって銭を千貫もらったら、「じゃお前は家に帰りなさい。沖縄に帰りなさい。」と唐の偉い人が言ったらしいんだ。そしたら、今度は二番目の貧乏者の子どもにね、たずねたらしいんだよ。「お前は銭をもらうのと話を聞くのとどっらがいいか。」と聞いたら、貧乏者の子どもは、「私はもう銭をもらうよりは話を聞くのがいいです。」と、唐の偉い人に答えたそうだ。それで、その話というのは何かというと、「やせ牛のからまりをはずせ」という一言だったらしいよ。「やせ牛のからまりをはずせ」という一言。「じゃあ、これだけだから、お前は沖縄に帰りなさい。」と言ったらしいんだ。それでこの、貧乏者の子どもはもう帰りながらね、これは銭をもらった方がよかった、銭をもらったら親孝行もできたのに、ただ、「やせ牛のからまりをはずせ」という話を聞いただけでは、親につくすこともできない。これはどうしたらいいかなと、もう泣き泣き帰って行ったらしいんだ。山原に。それで、子どもが帰る途中だ、浜辺にやせ牛が、鼻綱を木の根っこにからませていたそうなんだ。からませてね、牛はもう鼻を地面にくっつけていたって。ひどく鼻綱をからませてね。それでこの貧乏者の子どもはこれを見てね、「ははあ、これは、私が唐にいるとき、『やせ牛のからまりをはずせ』という話を聞かされたけど、このことじゃないかな。」と思ったんだ。この子どもはもう立って見ながらたしかにこれに間違いないからといって、この牛の鼻綱を木から解いたら、牛はもう立つことができたらしいんだ。そしたらこの牛がね、「私は水が欲しいから、川原に連れて行って水を飲ませてくれ。」と言ったらしいんだ。牛がものを言ったって。それでこの貧乏者の子どもは、川原にこの牛を連れて行ってね、水を飲ませたらしい。水を飲ませている時に、牛の持ち主が来てね、持ち主がこの子どもに、貧乏者の子どもにだよ、「お前は私の牛を盗んだな。お前は牛盗人だ。」と言うと、この子どもはね、「私は、牛は盗んではおりません。唐にいって、『やせ牛のからまりをはずせ』という話を聞かされたから、この牛を見たら、もう気の毒になって綱をはずしたんだ。そしたら、この牛が、『私は水が欲しいから、川原に連れて行って水を飲ませてくれ』と、ものを言ったから、私はこの牛を連れて行って水を飲ますつもりなんですよ。」と、牛の持ち主に言ったって。持ち主は、「ばかなことを言って、牛がものを言うか。」って怒ったそうだ。この子どもに。そしたら、子どもが、「じゃ、それなら二人でかけをしましょう。もしこの牛がね、ものを言わなければ、私は一生あなたがたに使われます。でも、牛がものを言ったらこの牛は私にくださいね。」と、約束したらしいんだ。そしたからこの牛の持ち主は、「ああ、いいよ。牛がものを言うってことがあるか。そういう条件ならこの牛をお前にやるよ。でも、この牛がものを言わない時は、お前は私の家で一生涯使うからな。下男として使うからな。」って相談できたそうなんだ。もうこの持ち主も合点してね。それでこの貧乏者の子どもが牛にね、「おい、牛よ、お前は水をくれと言ったよな。」って言うとね、「私はそう言いました。」って牛がものを言っていたってよ。「はい、言いました。川原に連れて行って水を飲ませてくれって、言いました。」って。それで子どもは、「ほら、どうですか。この牛はもの言っているでしょう。じゃあ、約束どおりこの牛は私にください。」っていってね、それで、約束どおりこの牛はもらってね、牛を引張って行ったらしいんだ。牛を連れて行く途中、浜のそばにね、夕顔が打ち寄せられていたらしいんだ。食べる夕顔ね。そしたらこの牛がね、「おい、あの夕顔を、取って来い。」って言ったそうなんだ。それでこの青年は、夕顔をとってきて、「何で、これをどうするのか。」って言ったら、「もし私が別の年とけんかするときね、この夕顔を私の角に差し込んでくれ。」って牛が教えたらしいんだ。それから、夕顔も取って、また牛を引っ張って行く時にね、田んぼで、雄牛たちが、太っている牛たちが、田に鋤をかけていたそうなんだ。二、三頭の雄牛がね。それでこの牛がね、青年に、「おい、『さあ、あなたの牛と、私たちの牛と、けんかさせましょう』って言え。」って言ったらしいんだ。「お前はそんなにやせているのにだいじょうぶか。あそこで鋤をかけている牛は、あんなに太った大牛だのに、お前はけんかしたらかなうのか。」って言ったら、「もし私がけんかしたら、この夕顔を私の角に差し込んでくれ。」って、教えたらしい。それで今度は、この青年はもうそこの田んぼに行ったら、主人に、「もし、あなたたちの牛と私の年とけんかさせましょう。」って言ったらしいんだ。そしたら、主人は、「あきれたやつだお前は。お前の牛はあんなにやせているくせに。それにくらべると、私の牛は太ってるからけんかさせたら、お前の牛は負けるぞ。お前の牛は負けるぞ。」って言ったって。子どもは、「もし、私の牛とね、あなたがたの牛とけんかさせて私の牛が負けたら、私はもう一生涯でもね、あなたがたの下男になって使われ者になるよ。でも、私の牛が勝ったらこれぐらいの田んぼね、田んぼを私にください。」と言って、主人とかけをしたらしい。そしたら、主人も合点して、もうけんかさせたそうだよ。そうやってけんかさせたらしいんだ。ところで、子どもはけんかさせる前に、浜でみつけた夕顔ね、これを牛の角に刺し込んだってよ。そしたら、このやせ牛はもう夕顔を差し込んだ角を振りまわしたそうだ。夕顔の中には種があるから、ガラガラするわけよ。振り回したらね、ガラガラする音で、この太った牛たちは恐がって、逃げたそうだ。大牛たちは。逃げたから、この、やせ牛の持ち主の子どもがね、「ほら、どうですか。私の牛はもう勝ちました。約束どおり、私の牛は勝ったから田んぼを私に下さい。」って言ったら、主人は、「もうこれはしかたがない、約束だから。」と言ったそうだ。それで、たくさんの田んぼをもらってこの貧乏者の子どもは大変な金持になったって。だから、金持ちになったのはどうしてかと言うと、唐に行って、「やせ牛のからまりをはずせ」という、ひと言をもらったおかげで、財産持ちになったわけだよ。こういう話なんだ。だから、人間は、銭をもらうよりはね、話を聞く方がいいって。話を聞いたから、非常に自分のためになったそうだよ。あの金持ちの子どもがもらった銭はね、この千貫銭というのは、何に使ったかわからんわけよ。でも、この貧乏者の子どもは銭ではなくて話を聞いて、金持ちになったって話だ。これが、「やせ牛のからまりをはずせ」という話なんだ。

再生時間:8:03

このお話の動画を見る

クリックすると動画が再生されます。 ※再生パターンは4種類です。

  • 話者の語りで見る

    実際の話者のお話

  • 島言葉で見る

    話者のお話を元にした方言バージョン

  • 共通語で見る

    話者のお話を元にした共通語バージョン

  • 音声記号で見る

    音声記号バージョン

  • この映像の著作権は、沖縄県立博物館・美術館にあります。

    研究および教育普及目的以外での無断使用は固く禁じます。
    コンテンツの複製、利用については、博物館に必ず許可を得てください。

  • アンケートにご協力お願いします。

民話詳細DATA

レコード番号 47O376476
CD番号 47O37C261
決定題名 もの言う牛(シマグチ) 
話者がつけた題名 えー牛ぬまちぶい話
話者名 石川元助
話者名かな いしかわげんすけ
生年月日 19130707
性別
出身地 沖縄県恩納村谷茶
記録日 19760223
記録者の所属組織 沖縄口承文芸学術調査団
元テープ番号 恩納村T45A04
元テープ管理者 沖縄伝承話資料センター
分類 動物昔話
発句(ほっく)
伝承事情 父親が谷茶大工といわれるほどの優れた大工で、少年期から青年期にかけて父親からよく話を聞かされた。また友人間からの話も多い。
文字化資料
キーワード やせ牛,鼻綱,木の根,金持ちの子どもと貧乏者の子ども,唐に修行,銭を千貫,話を聞く,親孝行,水を飲ませてくれ,夕顔,太った大牛,けんか,夕顔の中に種,財産持ち
梗概(こうがい) 私の話は、「やせ牛のからまった綱をはずせ」という題目だよ。やせ牛というのは、わかりやすく言うと、やせた牛。やせた牛のからまりをはずせといってね、このやせた牛には鼻綱があるでしょ。鼻綱。鼻綱があるから、これが木の根っこに巻いているでしょ。これをはずせという題目なんだよ。「やせ牛のからまりはずせ」というのは。これはね、昔ね、話のたびに昔々だけど、何年前かわからないんだ。金持ちの子どもと貧乏者の子どもがね、現在の中国、唐に修行しに行ったらしいんだ。そしたら、唐の偉い人が、この沖縄から行った子どもたち二人に聞いたらしいんだよ。「お前たちは、銭を千貫もらうのと、話を聞くのとどれがいいか。」と聞いたんだ。そしたら、最初に金持ちの子どもが、「私はもう話を聞くよりは、銭をもらった方がいい。」といって銭を千貫もらったら、「じゃお前は家に帰りなさい。沖縄に帰りなさい。」と唐の偉い人が言ったらしいんだ。そしたら、今度は二番目の貧乏者の子どもにね、たずねたらしいんだよ。「お前は銭をもらうのと話を聞くのとどっらがいいか。」と聞いたら、貧乏者の子どもは、「私はもう銭をもらうよりは話を聞くのがいいです。」と、唐の偉い人に答えたそうだ。それで、その話というのは何かというと、「やせ牛のからまりをはずせ」という一言だったらしいよ。「やせ牛のからまりをはずせ」という一言。「じゃあ、これだけだから、お前は沖縄に帰りなさい。」と言ったらしいんだ。それでこの、貧乏者の子どもはもう帰りながらね、これは銭をもらった方がよかった、銭をもらったら親孝行もできたのに、ただ、「やせ牛のからまりをはずせ」という話を聞いただけでは、親につくすこともできない。これはどうしたらいいかなと、もう泣き泣き帰って行ったらしいんだ。山原に。それで、子どもが帰る途中だ、浜辺にやせ牛が、鼻綱を木の根っこにからませていたそうなんだ。からませてね、牛はもう鼻を地面にくっつけていたって。ひどく鼻綱をからませてね。それでこの貧乏者の子どもはこれを見てね、「ははあ、これは、私が唐にいるとき、『やせ牛のからまりをはずせ』という話を聞かされたけど、このことじゃないかな。」と思ったんだ。この子どもはもう立って見ながらたしかにこれに間違いないからといって、この牛の鼻綱を木から解いたら、牛はもう立つことができたらしいんだ。そしたらこの牛がね、「私は水が欲しいから、川原に連れて行って水を飲ませてくれ。」と言ったらしいんだ。牛がものを言ったって。それでこの貧乏者の子どもは、川原にこの牛を連れて行ってね、水を飲ませたらしい。水を飲ませている時に、牛の持ち主が来てね、持ち主がこの子どもに、貧乏者の子どもにだよ、「お前は私の牛を盗んだな。お前は牛盗人だ。」と言うと、この子どもはね、「私は、牛は盗んではおりません。唐にいって、『やせ牛のからまりをはずせ』という話を聞かされたから、この牛を見たら、もう気の毒になって綱をはずしたんだ。そしたら、この牛が、『私は水が欲しいから、川原に連れて行って水を飲ませてくれ』と、ものを言ったから、私はこの牛を連れて行って水を飲ますつもりなんですよ。」と、牛の持ち主に言ったって。持ち主は、「ばかなことを言って、牛がものを言うか。」って怒ったそうだ。この子どもに。そしたら、子どもが、「じゃ、それなら二人でかけをしましょう。もしこの牛がね、ものを言わなければ、私は一生あなたがたに使われます。でも、牛がものを言ったらこの牛は私にくださいね。」と、約束したらしいんだ。そしたからこの牛の持ち主は、「ああ、いいよ。牛がものを言うってことがあるか。そういう条件ならこの牛をお前にやるよ。でも、この牛がものを言わない時は、お前は私の家で一生涯使うからな。下男として使うからな。」って相談できたそうなんだ。もうこの持ち主も合点してね。それでこの貧乏者の子どもが牛にね、「おい、牛よ、お前は水をくれと言ったよな。」って言うとね、「私はそう言いました。」って牛がものを言っていたってよ。「はい、言いました。川原に連れて行って水を飲ませてくれって、言いました。」って。それで子どもは、「ほら、どうですか。この牛はもの言っているでしょう。じゃあ、約束どおりこの牛は私にください。」っていってね、それで、約束どおりこの牛はもらってね、牛を引張って行ったらしいんだ。牛を連れて行く途中、浜のそばにね、夕顔が打ち寄せられていたらしいんだ。食べる夕顔ね。そしたらこの牛がね、「おい、あの夕顔を、取って来い。」って言ったそうなんだ。それでこの青年は、夕顔をとってきて、「何で、これをどうするのか。」って言ったら、「もし私が別の年とけんかするときね、この夕顔を私の角に差し込んでくれ。」って牛が教えたらしいんだ。それから、夕顔も取って、また牛を引っ張って行く時にね、田んぼで、雄牛たちが、太っている牛たちが、田に鋤をかけていたそうなんだ。二、三頭の雄牛がね。それでこの牛がね、青年に、「おい、『さあ、あなたの牛と、私たちの牛と、けんかさせましょう』って言え。」って言ったらしいんだ。「お前はそんなにやせているのにだいじょうぶか。あそこで鋤をかけている牛は、あんなに太った大牛だのに、お前はけんかしたらかなうのか。」って言ったら、「もし私がけんかしたら、この夕顔を私の角に差し込んでくれ。」って、教えたらしい。それで今度は、この青年はもうそこの田んぼに行ったら、主人に、「もし、あなたたちの牛と私の年とけんかさせましょう。」って言ったらしいんだ。そしたら、主人は、「あきれたやつだお前は。お前の牛はあんなにやせているくせに。それにくらべると、私の牛は太ってるからけんかさせたら、お前の牛は負けるぞ。お前の牛は負けるぞ。」って言ったって。子どもは、「もし、私の牛とね、あなたがたの牛とけんかさせて私の牛が負けたら、私はもう一生涯でもね、あなたがたの下男になって使われ者になるよ。でも、私の牛が勝ったらこれぐらいの田んぼね、田んぼを私にください。」と言って、主人とかけをしたらしい。そしたら、主人も合点して、もうけんかさせたそうだよ。そうやってけんかさせたらしいんだ。ところで、子どもはけんかさせる前に、浜でみつけた夕顔ね、これを牛の角に刺し込んだってよ。そしたら、このやせ牛はもう夕顔を差し込んだ角を振りまわしたそうだ。夕顔の中には種があるから、ガラガラするわけよ。振り回したらね、ガラガラする音で、この太った牛たちは恐がって、逃げたそうだ。大牛たちは。逃げたから、この、やせ牛の持ち主の子どもがね、「ほら、どうですか。私の牛はもう勝ちました。約束どおり、私の牛は勝ったから田んぼを私に下さい。」って言ったら、主人は、「もうこれはしかたがない、約束だから。」と言ったそうだ。それで、たくさんの田んぼをもらってこの貧乏者の子どもは大変な金持になったって。だから、金持ちになったのはどうしてかと言うと、唐に行って、「やせ牛のからまりをはずせ」という、ひと言をもらったおかげで、財産持ちになったわけだよ。こういう話なんだ。だから、人間は、銭をもらうよりはね、話を聞く方がいいって。話を聞いたから、非常に自分のためになったそうだよ。あの金持ちの子どもがもらった銭はね、この千貫銭というのは、何に使ったかわからんわけよ。でも、この貧乏者の子どもは銭ではなくて話を聞いて、金持ちになったって話だ。これが、「やせ牛のからまりをはずせ」という話なんだ。
全体の記録時間数 8:17
物語の時間数 8:03
言語識別 方言
音源の質
テープ番号
予備項目1

トップに戻る

TOP