まあ、妻も子どもを産めない、夫も子どもを作れない者どうしだが、夫婦になってね、二人。もう非常にいいあんばいに暮らしていたんだ。隣近所には金持もたくさんいて、いろんなものを持っていたが、人のものを欲しがらなかったんだ。そんなにして二人で暮らしていたそうだ。夫はもう、毎日薪を取ってね、薪を一荷ずつ持ってきて、それを売って生活していたらしいんだ。それを売ってね。それで夫は、「今日は、いい天気だから、また行ってかついでくるよ。」と出かけたんだよ。それで、かついで来たら、かつぐのはな
んべんもあるが、このかついできた薪がひとつも残らないんだ。「めずらしいなあ。よし、もう私はがまんできないからな。正月前にもなっていることだし、このままではいけない。私がかついできた薪を広げて、私をこの中に入れてこれでしめつけて束ねてくれ。盗人をつかまえるから。」と妻に言ったんだ。そしたら、夫は盗人をつかまえるつもりで隠れていたのに、動いたような気がしたと思ったら、もう天に上がっているらしいんだ。天に。天に上がってしまったら、目をキョロキョロさせてね。「なんだここは、見たこともない所だな。段の棚は、見通すことができないくらい並んでいるし、大桶も見通すことができないくらい並んでいるな。めずらしい所だなあ。」といっていると、むかいの神が、「おい、お前は天に引き上げられてよかったな。」と言ったそうだよ。「ここは天なんですか。」「そうだ、天だよ。ここは天という所だ。お前たちの国ではここを天と呼んでいるなあ。」「どうしたんですか。私をこんな遠くまで持ってきて、どうするつもりですか。」「お前は、一日に二荷の(薪)がお前の食いっぷちなのに、三荷も持っていったから、天に引き上げたんだ。」「それ、あそこに積んである薪は、お前がよけいに持っていったもんだよ。」「ああそうなんですか。そういうことでしたら、よけいに薪を取ってはいけないんですね。」と、夫と神は話したんだ。そしたら、また神がね、「お前はそう言うが、人の福分を知らないだろう。見たいか。」と聞いたら、「ああそれは見たいなあ。」と言ったんだな。それで、人の福分はどうして分けるかというとだな、大桶がいっぱい並べられているよね、大桶が。それに水が入っているわけだ。桶の半分以上あるのもあるし、半分より下のもある。また、満ちあふれているのもあるんだ。神が、「これが人の福分の水だよ。」と言ったら、「それじゃあ私たちの福分はどれですか。」と聞いたんだ。「ほら、ここにあるよ。お前たちの福分の水はここにあるじゃないか。」と言うんだよ。見たら、桶を傾けてようやく一升ぐらいあったらしいよ。「私たちは、たったそれだけの水なんですか。」「うん、そうだよ。だから、働いたってそれだけが天からの福分なんだから、それ以上もっともうけたって意味はないよ。天に全部引き上げられるからな。お前たちは難儀するだけだよ。持っていかれるからな。」そしたら夫が、「それじゃあ神さま。この隣の水が溢れている桶は何という者のですか。」って言ったら、「あれは、まだ生まれてない。やがて生まれるんだ。」「生まれなくても福分の水が溢れるほどもあるんですか。」「うんあるよ。あれはもうすぐ、やがて生まれるよ。」と神も言ったんだな。それからまた神は、「それはそうと、お前は、天に上げられた功労として、いいことがあるよ。夫婦は和談和睦で仲むつまじいし、有るか無いかの貧しい暮らしで、正月になっても、火正月といって、火であたたまって暮らすぐらいの夫婦だから、お前たちの福分はこれからだよ。」と言ったらしい。「そうですかねえ。」「そうなるよ。自分の家へ帰ればわかるよ。」と言ったって。それで、少し動いたと思ったら、もう自分の家に着いているんだ。「あれ、もう自分の家だ。」と思っていたら、妻が、「あんた盗人はつかまえたの。」と聞くので、「はあ、あれは盗人じゃなかった。天に私は行ってきたんだよ。」と答えたんだよ。「天だって。天に行けるもんか。」「いや、行ってきた。立派に行ってきたよ。もう人の福分も、身分も、いろんなものを見てきたよ。お前と私は、生まれてくる前から夫婦だ。もう、人の物も欲しがらない。うらやましくもない。もう立派な夫婦だと天の神さまがおっしゃったよ。」「そのとおりだよ。私たちは人の物は欲しがらない。いくら金持ちがいたって欲しがらない。あんたもそうだし、私もそうだから。そういう性分だからね。」「そうだな。そのとおりだなお前。」と、二人は話したんだよ。それから、夫が天から降りてきて二、三日して、女が入ってきたらしい。「あれあれ、今日は正月なのに。あの女は、あんなに急いでこっちに来るが、正月そうそうどこにかね。」と言っていたら、女がむりやり、家に入って、「もう私はここで少し寝ることにしよう。」と言うんで、夫が、「ここは、ごみも多くて、こんなにしているから、お休みになるなら、後ろは金持ちできれいな家だから、そこへ御案内しましょう。」と言ったら、「そんなにしてはいけない。私をそんなにあつかうものではない。」と答えたんだ。「ああそうですか。それじゃあ、よろしいんですね。」って言ったら、「いい。」と答えるんだ。それから夫が妻に、「おいお前あのお粥は全部食べたのか。」と聞いたら、「鍋を傾けて、お椀の一杯あるかどうかだね。」と言ったって。「おあげなさい、おあげなさい。早くそれをあげなさい。」と、また夫が言ったんで、妻は、「これは私たちの大晦日の夕飯ですが、おあがりください。」と、女に言ったら、「御馳走になるよ。」と言って食べたんだ。それからだ、女はお粥を飲むと、そこで子どもを産むようすなんだ。子どもを。「はあ、この人はここで、赤ん坊を産むつもりみたいだね。」と話しているうちに赤ん坊ができたんで、「あはあ、やっぱり。」と夫婦でめずらしがったんだよ。夫が、「どうですか、身体はどうもありませんか。どこも具合悪くありませんか。」と聞いたら、「ええ、私はなんともないから、赤ん坊を見てちょうだい。」と
頼むんだ。それで夫は、「おい、私の汚れ物があっただろう。ほら、あの着けられない着が。それを持ってきて、身体を拭いてあげなさい。」と妻に言いつけたんだよ。それからなんだ。隣近所からは、粥を持って来るのがいるし、お盆に御馳走を入れて持って来るのもいるし、御馳走のある限りが持ち寄せられたんだ。そこの家にね。ほかにも被り物を持って来るのがいるんで、「どうしたんだろう。この間までは道で会っても、ものひとつ言わない連中が。今日は変わっているな。」と夫婦は不思議がったんだ。そしたら女が、この子どもを産んだ女が、「さあ、お父さんもお母さんも、この御馳走を全部食べてください。こんなにたくさん並べられても、私は食べきれないんだから。食べてくださいね。」と言ったんで、「それじゃ、食べることにしよう。」と言って食べたんだ。こうしてこの子どもの力で、食べ物を寄せてね。生まれた子どもの力で、食べ物が持ち寄せられたんだ。女はもうどこにも行かないで、そこの家にずっといたって。親子でね。夫が、「ところで、ここは家もこんなできたないし、あなたがたは、こんなところにいてもいいんですか。」と聞いたら、女は、「あなたがた二人は、私の親です。私を嫁と思いなさい。」と答えたって。「そういうことだったら、いいですよ。ただで人の御馳走も食べられて、着物も私たちのぶんまでたくさんあることだし、もうこんなうれしいことはないよ。」と喜んでいたら、この子どもを産んだ女は、「なんでもないことだよ。これは天からの授り物だからね。私も天から来た者なんだから大丈夫だよ。皆んなが持って来る物は黙って受け取っておいて大丈夫だよ。私たちだけで仲良く暮らそうね。」と言ったんだよ。それから、すこし落ち着いたので、この夫が、「ところで、この赤ん坊の親は誰ですか。」と女に聞いたら、「わからない。」「それじゃあ、あなたの親は誰ですか。」「私の親もわからない。」と女は言ったって。夫は、「はあ、あなたも天の人と同じだね。ふつうの人ではないね。」と言って、この夫婦と親子は、この家で日を送って暮らしたんだよ。そしてね、この赤ん坊が、どんどん成長して、十、二十にもなって大きくなったら、この子は、「こんなにしてここにいたらものごとはわからんから、都会に行って人と同じようにしないといけない。」って言うんで、「そういうことだったら、私たちには力が及ばないから、もうお前の考えひとつだよ。」と母親は言ったって。それでこの子は、急ぐようにして出かけて行ったんだ。しばらくしてから、息子は都会から帰ってね、自分の家を作るといって、敷地をしきならしていたそうなんだ。それで、敷地をならしていたら、こんなに大きな金がまるまる三つ出てきたんだ。土を引き上げたら黄金が出てきたんだが、この子は、「何でもない。」と気にしなかったって。ところが、夫が、「黄金というもんだよ。」と教えたんで、転がしてそばに黄金を置いておいたって。黄金をそばに置いて、また、「あそこが少し盛り上がっているから、あそこまではしきならそう。」と、そこの土を引いたら、またも、これくらいの黄金が三つ出てきたんだ。「あれまあ、ありがたいことだ。でかしたぞ。よし、家を作ったら、最初の黄金三つは、家の中門にしよう。この三つは外門にしよう。」と言って、この子は家を立派に作りあげたんだ。ところで、この家を作るのだって、「家は作ったのか。」と言っては人々が来て、さっさと手伝ったらしいんだね。人が。自分ではしなくて、みんな人が来て、家からなにから、全部作ったらしいんだ。そうしたもんだから、この子は、「ああ、めずらしいことだ。頼みもしない人たちまで多く来て、家作りを手伝ったんで立派にしあがったよ。もうこれ以上の立派な家はない。」と言って喜んだそうだよ。それから、自分の母親や、あの夫婦を呼んだら、「立派に出来上がったね。」と言って喜んだので、そこで皆んな暮らしたそうだ。ところが家は作ったが蔵というものがなかったんだ。それでも米屋がひっきりなしに米を、「買いなさい。買いなさい。」と持って来るんで、もうお金がないもんだから断ったんだ。だけど、「お金はあとでいいから買いなさい。」と言うんで、「それじゃあ、蔵を作ってからね。」と言って、大きな蔵と小さな蔵を二つ作ったんだよ。それで、蔵作りも終えたんで、米を大きな蔵の中にいっぱい、小さな蔵にもいっぱいにしたら、「ああめずらしいことだ。」と、そこの国の人たちは不思議がったんだ。「この人たちは神にちがいない。国を建てる天皇陛下だ。」と言ってね。そしたら、そこの家は、巡査が黄金を守ったり、お金を守ったりするし、また番頭たちもたくさん集まったんだよ。そんなにしてやっていると、この集まった人たちは、「私たちの手間賃は、あなたの家の黄金の建て柱を掃除させてくれるだけでいいです。」「手間賃は柱をこんなに削るだけでいいんです。」「柱から金が落ちるぶんだけ、手間賃にするだけでいいですから。」と言ったって。そしたら、この親子も、「そうだね、金は宝だからな。」と許したんで皆な喜んだそうだ。この金というものは宝物だから、削るだけでも、満足するわけだよ。それだけでも手間賃にあたるわけさ。そうして、ゆうゆうと暮らしていたら、今度は、そこのなかでも目立った人が、「あなた方は屋号がありますか。」と聞くんで、「いいや、何もない。」と答えたら、「それじゃいいです。台湾金持ちと名付けますから。」と言ったそうだよ。台湾での話らしいんだ。台湾。台北での話らしいんだね。台湾金持といって、まだ、台湾金持はあるよ。それだけだよ。
| レコード番号 | 47O376444 |
|---|---|
| CD番号 | 47O37C259 |
| 決定題名 | 台湾金持ち(シマグチ) |
| 話者がつけた題名 | - |
| 話者名 | 荻堂盛仁 |
| 話者名かな | おぎどうせいじん |
| 生年月日 | 18930702 |
| 性別 | 男 |
| 出身地 | 沖縄県恩納村太田 |
| 記録日 | 19760530 |
| 記録者の所属組織 | 沖縄口承文芸学術調査団 |
| 元テープ番号 | 恩納村T43A05 |
| 元テープ管理者 | 沖縄伝承話資料センター |
| 分類 | 本格昔話 |
| 発句(ほっく) | - |
| 伝承事情 | 首里の玉城殿内のお爺が話し好きで昔話をよく聞かせてくれた。 |
| 文字化資料 | 『恩納村の民話・昔話編』P65 |
| キーワード | 夫婦,薪,正月前,盗人,天,大桶,神,人の福分の水,女,お粥,大晦日の夕飯,赤ん坊を産む,黄金,蔵,台湾金持ち |
| 梗概(こうがい) | まあ、妻も子どもを産めない、夫も子どもを作れない者どうしだが、夫婦になってね、二人。もう非常にいいあんばいに暮らしていたんだ。隣近所には金持もたくさんいて、いろんなものを持っていたが、人のものを欲しがらなかったんだ。そんなにして二人で暮らしていたそうだ。夫はもう、毎日薪を取ってね、薪を一荷ずつ持ってきて、それを売って生活していたらしいんだ。それを売ってね。それで夫は、「今日は、いい天気だから、また行ってかついでくるよ。」と出かけたんだよ。それで、かついで来たら、かつぐのはな んべんもあるが、このかついできた薪がひとつも残らないんだ。「めずらしいなあ。よし、もう私はがまんできないからな。正月前にもなっていることだし、このままではいけない。私がかついできた薪を広げて、私をこの中に入れてこれでしめつけて束ねてくれ。盗人をつかまえるから。」と妻に言ったんだ。そしたら、夫は盗人をつかまえるつもりで隠れていたのに、動いたような気がしたと思ったら、もう天に上がっているらしいんだ。天に。天に上がってしまったら、目をキョロキョロさせてね。「なんだここは、見たこともない所だな。段の棚は、見通すことができないくらい並んでいるし、大桶も見通すことができないくらい並んでいるな。めずらしい所だなあ。」といっていると、むかいの神が、「おい、お前は天に引き上げられてよかったな。」と言ったそうだよ。「ここは天なんですか。」「そうだ、天だよ。ここは天という所だ。お前たちの国ではここを天と呼んでいるなあ。」「どうしたんですか。私をこんな遠くまで持ってきて、どうするつもりですか。」「お前は、一日に二荷の(薪)がお前の食いっぷちなのに、三荷も持っていったから、天に引き上げたんだ。」「それ、あそこに積んである薪は、お前がよけいに持っていったもんだよ。」「ああそうなんですか。そういうことでしたら、よけいに薪を取ってはいけないんですね。」と、夫と神は話したんだ。そしたら、また神がね、「お前はそう言うが、人の福分を知らないだろう。見たいか。」と聞いたら、「ああそれは見たいなあ。」と言ったんだな。それで、人の福分はどうして分けるかというとだな、大桶がいっぱい並べられているよね、大桶が。それに水が入っているわけだ。桶の半分以上あるのもあるし、半分より下のもある。また、満ちあふれているのもあるんだ。神が、「これが人の福分の水だよ。」と言ったら、「それじゃあ私たちの福分はどれですか。」と聞いたんだ。「ほら、ここにあるよ。お前たちの福分の水はここにあるじゃないか。」と言うんだよ。見たら、桶を傾けてようやく一升ぐらいあったらしいよ。「私たちは、たったそれだけの水なんですか。」「うん、そうだよ。だから、働いたってそれだけが天からの福分なんだから、それ以上もっともうけたって意味はないよ。天に全部引き上げられるからな。お前たちは難儀するだけだよ。持っていかれるからな。」そしたら夫が、「それじゃあ神さま。この隣の水が溢れている桶は何という者のですか。」って言ったら、「あれは、まだ生まれてない。やがて生まれるんだ。」「生まれなくても福分の水が溢れるほどもあるんですか。」「うんあるよ。あれはもうすぐ、やがて生まれるよ。」と神も言ったんだな。それからまた神は、「それはそうと、お前は、天に上げられた功労として、いいことがあるよ。夫婦は和談和睦で仲むつまじいし、有るか無いかの貧しい暮らしで、正月になっても、火正月といって、火であたたまって暮らすぐらいの夫婦だから、お前たちの福分はこれからだよ。」と言ったらしい。「そうですかねえ。」「そうなるよ。自分の家へ帰ればわかるよ。」と言ったって。それで、少し動いたと思ったら、もう自分の家に着いているんだ。「あれ、もう自分の家だ。」と思っていたら、妻が、「あんた盗人はつかまえたの。」と聞くので、「はあ、あれは盗人じゃなかった。天に私は行ってきたんだよ。」と答えたんだよ。「天だって。天に行けるもんか。」「いや、行ってきた。立派に行ってきたよ。もう人の福分も、身分も、いろんなものを見てきたよ。お前と私は、生まれてくる前から夫婦だ。もう、人の物も欲しがらない。うらやましくもない。もう立派な夫婦だと天の神さまがおっしゃったよ。」「そのとおりだよ。私たちは人の物は欲しがらない。いくら金持ちがいたって欲しがらない。あんたもそうだし、私もそうだから。そういう性分だからね。」「そうだな。そのとおりだなお前。」と、二人は話したんだよ。それから、夫が天から降りてきて二、三日して、女が入ってきたらしい。「あれあれ、今日は正月なのに。あの女は、あんなに急いでこっちに来るが、正月そうそうどこにかね。」と言っていたら、女がむりやり、家に入って、「もう私はここで少し寝ることにしよう。」と言うんで、夫が、「ここは、ごみも多くて、こんなにしているから、お休みになるなら、後ろは金持ちできれいな家だから、そこへ御案内しましょう。」と言ったら、「そんなにしてはいけない。私をそんなにあつかうものではない。」と答えたんだ。「ああそうですか。それじゃあ、よろしいんですね。」って言ったら、「いい。」と答えるんだ。それから夫が妻に、「おいお前あのお粥は全部食べたのか。」と聞いたら、「鍋を傾けて、お椀の一杯あるかどうかだね。」と言ったって。「おあげなさい、おあげなさい。早くそれをあげなさい。」と、また夫が言ったんで、妻は、「これは私たちの大晦日の夕飯ですが、おあがりください。」と、女に言ったら、「御馳走になるよ。」と言って食べたんだ。それからだ、女はお粥を飲むと、そこで子どもを産むようすなんだ。子どもを。「はあ、この人はここで、赤ん坊を産むつもりみたいだね。」と話しているうちに赤ん坊ができたんで、「あはあ、やっぱり。」と夫婦でめずらしがったんだよ。夫が、「どうですか、身体はどうもありませんか。どこも具合悪くありませんか。」と聞いたら、「ええ、私はなんともないから、赤ん坊を見てちょうだい。」と 頼むんだ。それで夫は、「おい、私の汚れ物があっただろう。ほら、あの着けられない着が。それを持ってきて、身体を拭いてあげなさい。」と妻に言いつけたんだよ。それからなんだ。隣近所からは、粥を持って来るのがいるし、お盆に御馳走を入れて持って来るのもいるし、御馳走のある限りが持ち寄せられたんだ。そこの家にね。ほかにも被り物を持って来るのがいるんで、「どうしたんだろう。この間までは道で会っても、ものひとつ言わない連中が。今日は変わっているな。」と夫婦は不思議がったんだ。そしたら女が、この子どもを産んだ女が、「さあ、お父さんもお母さんも、この御馳走を全部食べてください。こんなにたくさん並べられても、私は食べきれないんだから。食べてくださいね。」と言ったんで、「それじゃ、食べることにしよう。」と言って食べたんだ。こうしてこの子どもの力で、食べ物を寄せてね。生まれた子どもの力で、食べ物が持ち寄せられたんだ。女はもうどこにも行かないで、そこの家にずっといたって。親子でね。夫が、「ところで、ここは家もこんなできたないし、あなたがたは、こんなところにいてもいいんですか。」と聞いたら、女は、「あなたがた二人は、私の親です。私を嫁と思いなさい。」と答えたって。「そういうことだったら、いいですよ。ただで人の御馳走も食べられて、着物も私たちのぶんまでたくさんあることだし、もうこんなうれしいことはないよ。」と喜んでいたら、この子どもを産んだ女は、「なんでもないことだよ。これは天からの授り物だからね。私も天から来た者なんだから大丈夫だよ。皆んなが持って来る物は黙って受け取っておいて大丈夫だよ。私たちだけで仲良く暮らそうね。」と言ったんだよ。それから、すこし落ち着いたので、この夫が、「ところで、この赤ん坊の親は誰ですか。」と女に聞いたら、「わからない。」「それじゃあ、あなたの親は誰ですか。」「私の親もわからない。」と女は言ったって。夫は、「はあ、あなたも天の人と同じだね。ふつうの人ではないね。」と言って、この夫婦と親子は、この家で日を送って暮らしたんだよ。そしてね、この赤ん坊が、どんどん成長して、十、二十にもなって大きくなったら、この子は、「こんなにしてここにいたらものごとはわからんから、都会に行って人と同じようにしないといけない。」って言うんで、「そういうことだったら、私たちには力が及ばないから、もうお前の考えひとつだよ。」と母親は言ったって。それでこの子は、急ぐようにして出かけて行ったんだ。しばらくしてから、息子は都会から帰ってね、自分の家を作るといって、敷地をしきならしていたそうなんだ。それで、敷地をならしていたら、こんなに大きな金がまるまる三つ出てきたんだ。土を引き上げたら黄金が出てきたんだが、この子は、「何でもない。」と気にしなかったって。ところが、夫が、「黄金というもんだよ。」と教えたんで、転がしてそばに黄金を置いておいたって。黄金をそばに置いて、また、「あそこが少し盛り上がっているから、あそこまではしきならそう。」と、そこの土を引いたら、またも、これくらいの黄金が三つ出てきたんだ。「あれまあ、ありがたいことだ。でかしたぞ。よし、家を作ったら、最初の黄金三つは、家の中門にしよう。この三つは外門にしよう。」と言って、この子は家を立派に作りあげたんだ。ところで、この家を作るのだって、「家は作ったのか。」と言っては人々が来て、さっさと手伝ったらしいんだね。人が。自分ではしなくて、みんな人が来て、家からなにから、全部作ったらしいんだ。そうしたもんだから、この子は、「ああ、めずらしいことだ。頼みもしない人たちまで多く来て、家作りを手伝ったんで立派にしあがったよ。もうこれ以上の立派な家はない。」と言って喜んだそうだよ。それから、自分の母親や、あの夫婦を呼んだら、「立派に出来上がったね。」と言って喜んだので、そこで皆んな暮らしたそうだ。ところが家は作ったが蔵というものがなかったんだ。それでも米屋がひっきりなしに米を、「買いなさい。買いなさい。」と持って来るんで、もうお金がないもんだから断ったんだ。だけど、「お金はあとでいいから買いなさい。」と言うんで、「それじゃあ、蔵を作ってからね。」と言って、大きな蔵と小さな蔵を二つ作ったんだよ。それで、蔵作りも終えたんで、米を大きな蔵の中にいっぱい、小さな蔵にもいっぱいにしたら、「ああめずらしいことだ。」と、そこの国の人たちは不思議がったんだ。「この人たちは神にちがいない。国を建てる天皇陛下だ。」と言ってね。そしたら、そこの家は、巡査が黄金を守ったり、お金を守ったりするし、また番頭たちもたくさん集まったんだよ。そんなにしてやっていると、この集まった人たちは、「私たちの手間賃は、あなたの家の黄金の建て柱を掃除させてくれるだけでいいです。」「手間賃は柱をこんなに削るだけでいいんです。」「柱から金が落ちるぶんだけ、手間賃にするだけでいいですから。」と言ったって。そしたら、この親子も、「そうだね、金は宝だからな。」と許したんで皆な喜んだそうだ。この金というものは宝物だから、削るだけでも、満足するわけだよ。それだけでも手間賃にあたるわけさ。そうして、ゆうゆうと暮らしていたら、今度は、そこのなかでも目立った人が、「あなた方は屋号がありますか。」と聞くんで、「いいや、何もない。」と答えたら、「それじゃいいです。台湾金持ちと名付けますから。」と言ったそうだよ。台湾での話らしいんだ。台湾。台北での話らしいんだね。台湾金持といって、まだ、台湾金持はあるよ。それだけだよ。 |
| 全体の記録時間数 | 15:40 |
| 物語の時間数 | 15:40 |
| 言語識別 | 方言 |
| 音源の質 | ◎ |
| テープ番号 | - |
| 予備項目1 | - |