〔方言原話〕 浜下り(はまうり)、旧暦(きゆ)ぬ三月三日(さんぐゎちさんにち)に、女達(いなぐぬちゃー)がうじゅーむっち、浜下り(はまうり)する話(はな)しい。かーま大昔(うーんかしー)、生物達(いちむしぬちゃー)やんな人(ちゅ)ん一緒(まじゅー)んどぅ暮らちょーたんでぃ。あんしある時(ばー)に、ある所(とぅくま)んかい美女(ちゅらいなぐ)ぬ生まりてぃ、親達(うやぬちゃー)じこーうっさし、とぉーなー今度(くんどっぉ)でぃきとぉーんでぃちさしが、なー年頃(とぅしぐろ)なてぃ、あまくまからいーやーがちん、うぬ女(いなごー)かーぶいし、まーにんいかん、地頭代(じとぅでぇー)役人達(やくにんぬちゃ)がち、「嫁(ゆみ)しみてぃくぃみそうり。」んちたるでぃん、てぃーちんおーやうきらん、あんしするうちねえー、うぬ女(いなぐ)ぬ身体(どぅー)ぬ次第(しでぇー)に変わてぃさくとぅ、母親(いなぐぬうや)ぬ、「貴方(やー)や、義理(ぢり)恥んまむてぃ、ゆうー親(うや)ぬこーんそうしが、唯一(ただてぃー)ちぇーゆすぬ、嫁(ゆみ)なてぃくぃみそうり、んでぃ言ちん、ふぃーちんかーぶいしおーやうらんしが、私(わー)がんーじーねえー、貴方(やー)身体(どぅー)や変わとぉーしが、ちゃーするばーが。」んでぃち問(とぅ)たくとぅ、うぬ女子(いなぐんぐゎー)、「ちゃーしがしぬでぃちゅーらわからんしが、私(わー)側(すば)んかいじこーな美青年(ちゅらにーせー)がちとぅまてぃ、朝方(あきがた)ないねえー、私(わー)がにんとぉーるうちに家(やー)かいはち、ちゃーんてぇーまん、話(はな)しい物語(むぬがたい)んねえーらんしが、うりとぅ一緒(まじゅん)にんてぇーしいしいさーなかい、なー身体(どぅー)ぬ変わとぉーん。」でぃ言ちゃくとぅ、母親(いなぐぬうや)ぬ、「あんし、うれえーまーぬたーやが。」んでぃち問(とぅ)ーたくとぅ、女(いなぐ)ぬ、「うぬ人(ちょー)、ただちゅくぃーなーるむのー言ゅる。二回(たけー)ぬん三回((みけー)ぬんでぃちぇー、言ちぇーちかさん。あんさーに、家(やー)かいけーてぃ行ちぃーにん、ぬーしいにん、ぬーんでぃん、言ゃんぐーとぅーる、けーてぃはちぇーしいしいすくとぅ、まーぬたーがやらわからん。あんしが確かに、んぢゅる物(むぬ)んんだんなとぉーくとぅ、あぬーぬーんでぃがやーなー身体(どぅー)ん変わとぉーしが、あんしるまーにんいかんある。」んでぃ言ちゃくとぅ、親達(うやぬちゃー)や心配(しわ)し、隣近所(ちゅけーとぅねー)ぬ人達(ちゅぬちゃー)んかい、「うんぐとぅーやんでぃしが、たーんわからんがやー。」んでぃち、皆(んな)んかい話(はな)しいさくとぅ、うぬ話(はな)しいちちょーる人達(ちゅぬちゃー)や、「あんせーなー、皆(んな)しかんげえてぃ一緒(まじゅー)んかめーいんてぇー。」んちそうる時(ばー)に、うぬ友達(どぅしぬちゃー)が漁師(うみあっちゃー)やしが、漁(いざい)すんでぃある夜(ゆる)うりたくとぅ、潮(すー)や満ちくくでぃ海んかえーうりららん。ちゅてぃーやくまうてぃいちょーてぃ、潮(すー)ぬふぃりはる海んかえーうりらりいるむんでぃち、いちょーてぃ潮(すー)ぬふぃーし待っちょーたくとぅ、後(くし)ぬ洞窟(がま)うてぃ、たーがやらぐじゅぐじゅさぎいしがうん。あんさくとぅ、「あー私(わん)やか他(ふか)にん、漁(いざい)しいあちょーる人(ちゅ)ぬうさやー。」んちそうしが、ぬーがやら、普通(あたいめー)ぬ人(ちゅ)ぬ話し声(ぐぃ)とぉー違てぃうしなかい、くーてぇーあびーぐゎるすくとぅ、ちゅーこーちからんなてぃ、さくとぅ、次第次第(しでぇーしでぇー)に洞窟(がま)んかいちかゆてぃんぢちちゃくとぅ、中(なーか)うてぃ話(はな)しいさぎいしが、ぬーぬ話(はな)しいさぎいがやーんでぃうむてぃ耳ささぎとぉーたくとぅ、一人(ちゅい)ぬ者(むん)ぬ、「私(わん)ねーあまぬ美女(ちゅらいなぐ)騙かさーなかいかさぎらちぇーしが、うぬ娘(いなぐ)んかい七袋(ななふくる)ぬ子精子(くゎさに)いってぇーくとぅ、くぬうち私(わー)子供達(くゎぬちゃー)が生まりんでぉー。」んでぃ言ちゃくとぅ、なー一人(ちゅい)ぬ者(むん)ぬ、「いぇー、君(やー)やなーまわからんさやー。アカマターぬ人(ちゅ)ぬ娘(いなぐ)かさぎらしいねえー、うぬかさぎとぉーる娘(いなぐ)ぬ浜んかいうりてぃ、白砂(しるしな)くだいねえー、だーうれーしむるなやーなかい、全部(むる)けーうりーるむんぬやー、絶対(ぢょーい)君(やー)子供(くゎー)、人(ちゅ)ぬ娘(いなぐ)のーなしゆうさん。」でぃ言ちゃくとぅ、うぬ話(はな)しいちちょーる者(むのー)、「いーいーいー、ありがうんな事(くとぉー)さんはじやくとぅ、確かに七(なな)ちぬ子供(くゎ)ぬ生まりんどぉー。」んでぃ言ち話(はな)しいそうたんでぃ。うりちちゃくとぅ、隣(とぅない)ぬ娘子(いなぐんぐゎー)かさぎとぉーしが、男(いきがー)わからんでぃる話(はな)しいやくとぅ、確かにくりるやるはじでぇーむんでぃうむやーに、よんなーよんなーうまから離りてぃ、家(やー)かい行ちゃーに隣(とぅない)ぬ人達(ちゅぬちゃー)うくち、「私(わん)ねえーあまぬ白浜ぬ側(すば)ぬ洞窟(がま)うてぃうぬ話(はな)しいちちゃしが、うり本当(ふんとぉー)がやらぬーがやらわからんしが。」んち話(はな)しいさくとぅ、今度(くんどぉー)母親(いなぐぬうや)ぬ、「むしか本当(ふんとぉー)やみ、あらねえー、でぃー確かみてぃんだ。私達(わったー)子供(わらばー)がやら、別(びち)ぬ子供(わらばー)がやらわからんむんぬ。」んでぃちさーに、うぬ子供(わらばー)寝室(にんじぢゃー)んかい、うーうふぉーくちなぢんちぇーるうーばーらむっちんぢゃーに、糸(いーちゅー)ぬ先(さち)んかえー針(はーい)ちきてぃ、「とぉー、まーぬたーんち話(はな)しいんさん、しらんふーなーしちにんてぇー、朝方(あきがた)ないねえーうぬままんぢぇーしいしいするむんやらー、貴方(やー)とぅ一緒(まじゅん)にんてぃうりしいに、うぬ人(ちゅ)ぬ着物(ちん)ぬくびんかい、うぬ針(はーい)さちょーけー。あんせーうーばーらぬうーぬんぢてぃ行ちゅくとぅ、明日(あちゃー)ぬ朝(あかち)ちぇー、うぬうーさとぅてぃ行ちゃーねー、まーぬたーんちわかいさ。」んち、娘子(いなぐんぐゎ)んかい言ゃーなかい、うぬうーばーらうちきてぃさーに、うぬ娘子(いなぐんぐゎ)んかい、アカマタんでぇー言ゃんぐとぅ、うぬ話(はな)しいさくとぅ、うぬ娘子(いなぐんぐゎ)あんすんでぃちそうるばーやしが、うぬ夜(ゆる)ん、うぬ娘子(いなぐんぐゎ)ぬ所(とぅくま)んかいうぬ美青年(ちゅらにーせー)がちゃーなかい、「はい。」んち、くーてぇーあびーぐゎーしさくとぅ、「たーやが。」んでぃ言ちん、返事(ふぃぜー)さん、ただちゅくぃるあびくとぅ、よーそーたくとぅいっちちゃーに、側(すば)んかいにんてぃさくとぅ、うぬ娘子(いなぐんぐゎー)、親(うや)ぬ言ゅてぇーるむんでぃち、針(はーい)や用意(しこー)てぃむっちそういねえー、うぬ青年(にーせー)が一緒(まじゅーん)にんてぃ、うりする時(ばー)に、うぬ青年(にーせー)ぬちんぬくびんでぃうむてぃ、針(はーい)さちゃんでぃ。うぬ針(はーい)とぅ糸(いーちゅ)とぉーちゅくくんだってぃるうくとぅ、うぬ青年(にーせー)がんぢてぃんぢゃくとぅ、うーやうぬままちゃーんぢーしんぢゃくとぅ、明朝(なーちゃぬあかちち)なたくとぅ、母親(いなぐぬうや)ん二人(たい)さーに、うぬ糸(いーちゅ)さとぅてぃんぢゃくとぅ、白浜ぬ側(すば)ぬ洞窟(がま)んかいちちさくとぅ、「とぉーくれえー確かに、くまんかい人(ちゅ)ぬういがすらわからんむん。」でぃうむやーに、「ちゃーびらさい。じちぇーなー、まーまーから尋ねてちょーいびいしが。」んち、えーじさんてぇーまん。ぬーぬ返事(ふぃじ)んねーらん。次第次第(しでぇーしでぇー)に中(なーか)んかいいっちゃくとぅ、まぎさなアカマターぬみーがーんかい、あぬ針(はーい)や立っち、また、うぬアカマターや、うまから顔(ちら)ぬしきてぃちゃくとぅ、「とぉーくれえーまちげーやねえーらんアカマターるやてぇーっさみ。」んでぃ言ゃーなかい、うぬ親子(うやくゎー)うまからはーえーし白浜ぬ白砂(しるしな)くだみたくぅ。あんさくとぅ、だーうぬかさぎとぉーる子(くゎー)アカマターぬ子(くゎ)るやくとぅ、浜ぬ白砂(しるしな)くだみたれえー、全部(むる)しむるなやーに、けえーうりたんでぃ。あんし、うんにんから丁度うぬ日(ふぃ)や旧暦(きゅぬ)三月三日(さんぐゎちさんにち)やたんでぃくとぅ、うぬ日(ふぃ)ないねえー女達(いなぐぬちゃー)や浜んかいうりてぃ、白砂(しるしな)くだみいるぐとぅなたんでぃ。昔(んかし)ぬ人(ちゅ)ぬ、男(いきがー)肋骨(そーきぶに)一本(てぃちぇー)即(ふすく)。女(いなごー)罰(ばち)かんじ者(むん)でぃち、ぬーんかいやてぃん、人(ちゅ)んかい、男(いきが)んかい、騙さりーやっさんでぃ、あんし、家(やー)ぬ外(ふか)から合図(いぇーじ)ぬあてぃん、ちゅくぃさーなかい、「うー。」んち返事(ふぃじ)さい、夜(ゆる)なーや、戸(はしる)あきたいしいよーんち、母親(いなぐぬうや)ぬならーちさーなかい、いーちきとぉーたんでぃる事(くとぅ)やん。うりが今(なま)までぃちぢち、人(ちゅ)ぬ家(やー)んかい行ちぃーねえー、「ちゃーびらさい。ちゃーびらさい。」んち、二回(たけーん)やかうふくあびるぐとぅなとぉーん。また、家(や)中(なーか)んかいうり人(ちゅ)ん、一回(ちゅけーん)合図(いぇーじ)ぬあてぃん黙とぉーてぃ、なー一回(ちゅけーん)合図(いぇーじ)さわる、「うー。」んち合図(いぇーじ)するぐとぅなとぉーん。また、なーてぃちぬ話(はな)しいや、アカマターやてぃんハブやてぃん、古鍋(ふるなーび)ぬ蓋、地面(ぢい)ぬ上(うぃ)んかいうぬまましてぃほーりそうてぃ、うりが下(しちゃ)うてぃ、アカマターんでぇーハブんでぇーぬ卵(くーが)なち、うりがししでぃとぉーるアカマターやハボー、人(ちゅ)騙かちゃい、女達(いなぐぬちゃー)騙かちゃいすくとぅんち、古くなてぃ、ちりむしりさーにちかーらんならわー、木(きー)ぬ枝(ゆだ)んかいかきてぃうちゅたん。私達(わったー)が幼少(くーさ)いぬー、豚小屋(ふーる)ぬ側(すば)ぬ木(きー)ぬ枝(ゆだ)んかい、いくちんかきてぃうかっとぉーたしが、うれえー先(さち)ぬ話(はな)しいちちゃーに、あんせーならんでぃち言ゃーなかい、古鍋蓋(ふるなーびんたー)木(きー)ぬ枝(ゆだ)んかいさぎてぃうちぇーるばーやしが。またぬ話(はな)しいや、旧暦(きゅぬ)三月三日(さんぐゎちさんにち)ねえー、女達(いなぐぬちゃー)やうじゅーすがてぃ、御馳走(くゎっちー)むっち浜下り(はまうり)すしが、首里(すい)那覇(なーふゎ)ぬ金持達(うぇーきたー)や、うぬアカマターんかい恨みむっち、下男達(ぢにんぬちゃー)んかいアカマターとぅめーらち、うりうじゅーんかいいってぃ、アカマターうじゅーんでぃ言ち、むっちいちゅんでぃ。あんし浜んかいうりゆうさん女達(いなぐぬちゃー)や、白砂(しるしな)むっちちゃーにくだみらすんでぃ。旧暦(きゅぬ)三月三日(さんぐゎちさんにち)に浜下り(はまうり)ぬ話(はな)しい。〔共通語訳〕 浜下り。旧暦三月三日に女達が重箱に御馳走を詰めて、浜下りをする話。ずうっと大昔は、動物達はみんな人間も一緒に暮らしていたそうだ。そして、或る時或る所で、とても美しい娘が生まれたので、親達は大変喜んで、今度はよくできたと思っていたのですが、年頃になって、あちらこちら嫁の貰い手がきても、その娘は顔を横に振ってどこにも嫁に行かずに、地頭代(じとぅでー)や役人達が、「嫁になって下さい。」と頼みにきても、一向に應と答えず、そうするうちにその娘の身体が次第に変わったので、母親が、「貴方は義理、恥もわきまえ、よく親の孝もしているが、ただ一つ、余所から嫁の貰い手が来ても、一向に顔を横に振って應は受けないが、私が見て、お前の身体は変わっているが、どうしたのか。」と問いますと、その娘は、「どのようにして忍び込んでくるのかわからないが、私の側に大変な美青年が来て泊まり、朝方になると、私が寝ている間に家に帰っていき、来ても、話し合いや物語も何も無いのだが、その人と一緒に寝て何をしていると、身体が変わっている。」と母親に話しましたので、母親は、「それでは、その男の人はどこの誰なのか。」と尋ねますと、その娘は、「その人は、ただ一声ずつしか物は言わず、二回三回とは声を出さず、それで家に帰っていく時にも、何も言わないで帰ってしまうので、今まで、どこの誰だかわからない。だが確かに、見るべきものが見えなくなっているので、あのう、何と言うか、私の身体は変わっているので、それでどこにも嫁に行かないのだ。」と母親に言いますと、親たちは心配して、隣近所の人達に、「その様な事になっているが、誰かわかる人はいませんか。」と話しますと、その話しを聞いた人達は、「それではみんなで考えて一緒に探そう。」と話し合っている時、その友達の漁師が、漁をする為に或る夜海に下りると、潮は満潮で海に入れないので、少しの間、ここに座っていて、潮が引いてからでないと海に下りれないからと思って、座って潮が引くのを待っていると、後ろの洞窟の方で、誰やら小声でヒソヒソ話し合っているのがいます。そうすると、「ああ、私の他にも漁に来た人がいるんだなあ。」と思ったのだが、どうも普通の人の話し声と違っているが、小声で話し合っているので、十分には聞き取れないので、次第次第に洞窟に近寄っていって聞きますと、中の方で話していますので、何の話しだろうと思って聞き耳を立てていますと、一人の者が、「私はねえ、あそこの美しい娘を騙して、その娘を孕ませてある。そしてその娘に七袋の子精子を入れてあるから、近いうちに子どもが生まれるよ。」と言いますと、もう一人の者が、「おい、お前はまだわからないのか。アカマタが人間の娘を孕ませている時に、もしその孕んだ娘が浜に下りて白砂を踏んだら、すぐに巣守になって全部墜胎てしまうのに、絶対お前の子どもを人間の娘が産む事はできないよ。」と話し合っています。するとその者は、「いやいや、あの娘はその様な事はしないはず。確かに七つの子どもが生まれるよ。」と言っていたそうだ。それを聞くと、隣の娘は妊娠しているが相手がわからないという話しだから、確かにこれに間違いないと思って、ゆっくりゆっくりその場を立ち去り、家に帰って隣の人達を起こして、その親達に、「私は今しがた、あそこの白浜の側の洞窟でこの話を聞いたが、それが本当かどうかはわからないが。」と話しますと、今度は母親が、「もしそれが本当かどうか。よし確かめてみよう。私達の娘か別の娘かわからないから。」という事で、糸をたくさん紡ぎ込んだ糸籠を、娘の寝室に持っていき、糸の先には針を付けて、母親が、「あのね、どこの誰とも言わず、話もしないで知らん顔で来て、寝て、朝方になるとそのまま帰って行くの繰り返しをするならねえ、お前と一緒に寝てそれをする時に、その人の着物の襟首にこの針を刺しておきなさい。そしたら糸籠の糸が出ていくから、明日の朝その糸を辿って行ったら、どこの誰かがわかるから。」と、その娘に言いつけて、その糸籠を置いて、その娘には、もしかしたらアカマタかもしれないとは言わないでいると、その娘も承知しました。すると、その夜もこの娘の所にあの美青年が来て、「はい。」と小声で呼びますので、「どなたですか。」と聞いても返事がありません。ただ一声かけただけですので、そのままにしていますと、中に入って来て娘の側に寝たのです。するとその娘は、母親に言われたのを思い出して、針を用意して待っていますと、その青年が一緒に寝て、それをする時にその針を男の着物の襟首と思って、針を刺したのです。その針と糸は強く結び付けてありますので、朝方になってその男が出ていきますと、糸籠の糸はそのまま出つづけていきました。明朝になりますと、母親も二人でその糸を辿って行きますと、白浜の側の洞窟に着いたので、「ああ、これは確かにここに人がいるのかもしれない。」と思い、「御免下さい。実はどこそこから尋ねてきた者ですが。」と、声をかけても何の返事も聞こえませんので、次第次第に中の方に入って行きますと、大きなアカマタの瞼に、あの針が突き立っていて、そのアカマタはそこから顔を突き出してきたのです。すると、「ああ、これは間違いなくアカマタだったのだ。」と、正体がわかり、その親子はそこから走って浜に下りたのです。そうすると、その娘の孕んでいる子どもはアカマタの子どもですから、浜に下りて白砂を踏むと、孕んでいるのは全部巣守になって墜胎てしまったとの事です。そしてその時から、丁度その日が旧暦の三月三日だったので、その日には女の人は浜に下りて、白砂を踏むようになったのです。昔の人は、男は肋骨一本不足、女は罰被り者といって、何にでも人にでも男にも騙されやすいという事だから、家の外から合図があっても、一声ですぐ、「はい。」と返事しないで、もう一度合図があった後に返事をし、夜は戸も開けるようにしなさいよと、母親が教えて言づけていたそうです。それが今までも続いていて、他人の家に行っても、「御免下さい、御免下さい。」と、二回以上呼ぶ様になっています。また、家の中にいる人も、一回外から合図があっても黙っていて、もう一回合図があった時に、「はい。」と返事する様になっています。また、もう一つの話は、アカマタでもハブでも、古くなった鍋の蓋を地面の上にそのまま置いて、その下でアカマタかハブが卵を産み、それが孵化したアカマタやハブは、人を騙したり、女達を騙すという事で、古くなって切れたり毟れたりして使えなくなったら、木の板に引っ掛けておいたのです。私達が幼少の頃は、豚小屋の側の木の枝に、幾つも掛けておいてあったが、それは先の話を聞いているので、それではいけないと思い、古い鍋蓋は木の枝に下げておいたのである。またの話は、旧暦の三月三日には、女達は重箱に御馳走を詰めて、それを持って浜に下りる様になっているが、首里や那覇の金持ち達は、そのアカマタに恨みを持ち、下男達にアカマタを探させて、それを煮て御重に入れて、アカマタ御重と言って持っていくとの事。そして浜に下りる事のできない娘達には、白砂を持ってきて踏ませたそうです。これが旧暦三月三日に浜下りをする話。識名隆人翻字 T5B2
レコード番号 | 47O170042 |
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CD番号 | 47O17C005 |
決定題名 | 浜下り(方言) |
話者がつけた題名 | 浜下り |
話者名 | 阿波根昌栄 |
話者名かな | あはごんしょうえい |
生年月日 | 19210309 |
性別 | 男 |
出身地 | 沖縄県中頭郡北谷町字上勢頭 |
記録日 | 19970217 |
記録者の所属組織 | 沖縄口承文芸学術調査団 |
元テープ番号 | T05B03 |
元テープ管理者 | 沖縄伝承話資料センター |
分類 | 本格昔話、 民俗 |
発句(ほっく) | - |
伝承事情 | - |
文字化資料 | 『想い出の昔話』 |
キーワード | 三月三日,娘,美青年,洞窟,アカマタ,白砂,糸,針 |
梗概(こうがい) | 〔方言原話〕 浜下り(はまうり)、旧暦(きゆ)ぬ三月三日(さんぐゎちさんにち)に、女達(いなぐぬちゃー)がうじゅーむっち、浜下り(はまうり)する話(はな)しい。かーま大昔(うーんかしー)、生物達(いちむしぬちゃー)やんな人(ちゅ)ん一緒(まじゅー)んどぅ暮らちょーたんでぃ。あんしある時(ばー)に、ある所(とぅくま)んかい美女(ちゅらいなぐ)ぬ生まりてぃ、親達(うやぬちゃー)じこーうっさし、とぉーなー今度(くんどっぉ)でぃきとぉーんでぃちさしが、なー年頃(とぅしぐろ)なてぃ、あまくまからいーやーがちん、うぬ女(いなごー)かーぶいし、まーにんいかん、地頭代(じとぅでぇー)役人達(やくにんぬちゃ)がち、「嫁(ゆみ)しみてぃくぃみそうり。」んちたるでぃん、てぃーちんおーやうきらん、あんしするうちねえー、うぬ女(いなぐ)ぬ身体(どぅー)ぬ次第(しでぇー)に変わてぃさくとぅ、母親(いなぐぬうや)ぬ、「貴方(やー)や、義理(ぢり)恥んまむてぃ、ゆうー親(うや)ぬこーんそうしが、唯一(ただてぃー)ちぇーゆすぬ、嫁(ゆみ)なてぃくぃみそうり、んでぃ言ちん、ふぃーちんかーぶいしおーやうらんしが、私(わー)がんーじーねえー、貴方(やー)身体(どぅー)や変わとぉーしが、ちゃーするばーが。」んでぃち問(とぅ)たくとぅ、うぬ女子(いなぐんぐゎー)、「ちゃーしがしぬでぃちゅーらわからんしが、私(わー)側(すば)んかいじこーな美青年(ちゅらにーせー)がちとぅまてぃ、朝方(あきがた)ないねえー、私(わー)がにんとぉーるうちに家(やー)かいはち、ちゃーんてぇーまん、話(はな)しい物語(むぬがたい)んねえーらんしが、うりとぅ一緒(まじゅん)にんてぇーしいしいさーなかい、なー身体(どぅー)ぬ変わとぉーん。」でぃ言ちゃくとぅ、母親(いなぐぬうや)ぬ、「あんし、うれえーまーぬたーやが。」んでぃち問(とぅ)ーたくとぅ、女(いなぐ)ぬ、「うぬ人(ちょー)、ただちゅくぃーなーるむのー言ゅる。二回(たけー)ぬん三回((みけー)ぬんでぃちぇー、言ちぇーちかさん。あんさーに、家(やー)かいけーてぃ行ちぃーにん、ぬーしいにん、ぬーんでぃん、言ゃんぐーとぅーる、けーてぃはちぇーしいしいすくとぅ、まーぬたーがやらわからん。あんしが確かに、んぢゅる物(むぬ)んんだんなとぉーくとぅ、あぬーぬーんでぃがやーなー身体(どぅー)ん変わとぉーしが、あんしるまーにんいかんある。」んでぃ言ちゃくとぅ、親達(うやぬちゃー)や心配(しわ)し、隣近所(ちゅけーとぅねー)ぬ人達(ちゅぬちゃー)んかい、「うんぐとぅーやんでぃしが、たーんわからんがやー。」んでぃち、皆(んな)んかい話(はな)しいさくとぅ、うぬ話(はな)しいちちょーる人達(ちゅぬちゃー)や、「あんせーなー、皆(んな)しかんげえてぃ一緒(まじゅー)んかめーいんてぇー。」んちそうる時(ばー)に、うぬ友達(どぅしぬちゃー)が漁師(うみあっちゃー)やしが、漁(いざい)すんでぃある夜(ゆる)うりたくとぅ、潮(すー)や満ちくくでぃ海んかえーうりららん。ちゅてぃーやくまうてぃいちょーてぃ、潮(すー)ぬふぃりはる海んかえーうりらりいるむんでぃち、いちょーてぃ潮(すー)ぬふぃーし待っちょーたくとぅ、後(くし)ぬ洞窟(がま)うてぃ、たーがやらぐじゅぐじゅさぎいしがうん。あんさくとぅ、「あー私(わん)やか他(ふか)にん、漁(いざい)しいあちょーる人(ちゅ)ぬうさやー。」んちそうしが、ぬーがやら、普通(あたいめー)ぬ人(ちゅ)ぬ話し声(ぐぃ)とぉー違てぃうしなかい、くーてぇーあびーぐゎるすくとぅ、ちゅーこーちからんなてぃ、さくとぅ、次第次第(しでぇーしでぇー)に洞窟(がま)んかいちかゆてぃんぢちちゃくとぅ、中(なーか)うてぃ話(はな)しいさぎいしが、ぬーぬ話(はな)しいさぎいがやーんでぃうむてぃ耳ささぎとぉーたくとぅ、一人(ちゅい)ぬ者(むん)ぬ、「私(わん)ねーあまぬ美女(ちゅらいなぐ)騙かさーなかいかさぎらちぇーしが、うぬ娘(いなぐ)んかい七袋(ななふくる)ぬ子精子(くゎさに)いってぇーくとぅ、くぬうち私(わー)子供達(くゎぬちゃー)が生まりんでぉー。」んでぃ言ちゃくとぅ、なー一人(ちゅい)ぬ者(むん)ぬ、「いぇー、君(やー)やなーまわからんさやー。アカマターぬ人(ちゅ)ぬ娘(いなぐ)かさぎらしいねえー、うぬかさぎとぉーる娘(いなぐ)ぬ浜んかいうりてぃ、白砂(しるしな)くだいねえー、だーうれーしむるなやーなかい、全部(むる)けーうりーるむんぬやー、絶対(ぢょーい)君(やー)子供(くゎー)、人(ちゅ)ぬ娘(いなぐ)のーなしゆうさん。」でぃ言ちゃくとぅ、うぬ話(はな)しいちちょーる者(むのー)、「いーいーいー、ありがうんな事(くとぉー)さんはじやくとぅ、確かに七(なな)ちぬ子供(くゎ)ぬ生まりんどぉー。」んでぃ言ち話(はな)しいそうたんでぃ。うりちちゃくとぅ、隣(とぅない)ぬ娘子(いなぐんぐゎー)かさぎとぉーしが、男(いきがー)わからんでぃる話(はな)しいやくとぅ、確かにくりるやるはじでぇーむんでぃうむやーに、よんなーよんなーうまから離りてぃ、家(やー)かい行ちゃーに隣(とぅない)ぬ人達(ちゅぬちゃー)うくち、「私(わん)ねえーあまぬ白浜ぬ側(すば)ぬ洞窟(がま)うてぃうぬ話(はな)しいちちゃしが、うり本当(ふんとぉー)がやらぬーがやらわからんしが。」んち話(はな)しいさくとぅ、今度(くんどぉー)母親(いなぐぬうや)ぬ、「むしか本当(ふんとぉー)やみ、あらねえー、でぃー確かみてぃんだ。私達(わったー)子供(わらばー)がやら、別(びち)ぬ子供(わらばー)がやらわからんむんぬ。」んでぃちさーに、うぬ子供(わらばー)寝室(にんじぢゃー)んかい、うーうふぉーくちなぢんちぇーるうーばーらむっちんぢゃーに、糸(いーちゅー)ぬ先(さち)んかえー針(はーい)ちきてぃ、「とぉー、まーぬたーんち話(はな)しいんさん、しらんふーなーしちにんてぇー、朝方(あきがた)ないねえーうぬままんぢぇーしいしいするむんやらー、貴方(やー)とぅ一緒(まじゅん)にんてぃうりしいに、うぬ人(ちゅ)ぬ着物(ちん)ぬくびんかい、うぬ針(はーい)さちょーけー。あんせーうーばーらぬうーぬんぢてぃ行ちゅくとぅ、明日(あちゃー)ぬ朝(あかち)ちぇー、うぬうーさとぅてぃ行ちゃーねー、まーぬたーんちわかいさ。」んち、娘子(いなぐんぐゎ)んかい言ゃーなかい、うぬうーばーらうちきてぃさーに、うぬ娘子(いなぐんぐゎ)んかい、アカマタんでぇー言ゃんぐとぅ、うぬ話(はな)しいさくとぅ、うぬ娘子(いなぐんぐゎ)あんすんでぃちそうるばーやしが、うぬ夜(ゆる)ん、うぬ娘子(いなぐんぐゎ)ぬ所(とぅくま)んかいうぬ美青年(ちゅらにーせー)がちゃーなかい、「はい。」んち、くーてぇーあびーぐゎーしさくとぅ、「たーやが。」んでぃ言ちん、返事(ふぃぜー)さん、ただちゅくぃるあびくとぅ、よーそーたくとぅいっちちゃーに、側(すば)んかいにんてぃさくとぅ、うぬ娘子(いなぐんぐゎー)、親(うや)ぬ言ゅてぇーるむんでぃち、針(はーい)や用意(しこー)てぃむっちそういねえー、うぬ青年(にーせー)が一緒(まじゅーん)にんてぃ、うりする時(ばー)に、うぬ青年(にーせー)ぬちんぬくびんでぃうむてぃ、針(はーい)さちゃんでぃ。うぬ針(はーい)とぅ糸(いーちゅ)とぉーちゅくくんだってぃるうくとぅ、うぬ青年(にーせー)がんぢてぃんぢゃくとぅ、うーやうぬままちゃーんぢーしんぢゃくとぅ、明朝(なーちゃぬあかちち)なたくとぅ、母親(いなぐぬうや)ん二人(たい)さーに、うぬ糸(いーちゅ)さとぅてぃんぢゃくとぅ、白浜ぬ側(すば)ぬ洞窟(がま)んかいちちさくとぅ、「とぉーくれえー確かに、くまんかい人(ちゅ)ぬういがすらわからんむん。」でぃうむやーに、「ちゃーびらさい。じちぇーなー、まーまーから尋ねてちょーいびいしが。」んち、えーじさんてぇーまん。ぬーぬ返事(ふぃじ)んねーらん。次第次第(しでぇーしでぇー)に中(なーか)んかいいっちゃくとぅ、まぎさなアカマターぬみーがーんかい、あぬ針(はーい)や立っち、また、うぬアカマターや、うまから顔(ちら)ぬしきてぃちゃくとぅ、「とぉーくれえーまちげーやねえーらんアカマターるやてぇーっさみ。」んでぃ言ゃーなかい、うぬ親子(うやくゎー)うまからはーえーし白浜ぬ白砂(しるしな)くだみたくぅ。あんさくとぅ、だーうぬかさぎとぉーる子(くゎー)アカマターぬ子(くゎ)るやくとぅ、浜ぬ白砂(しるしな)くだみたれえー、全部(むる)しむるなやーに、けえーうりたんでぃ。あんし、うんにんから丁度うぬ日(ふぃ)や旧暦(きゅぬ)三月三日(さんぐゎちさんにち)やたんでぃくとぅ、うぬ日(ふぃ)ないねえー女達(いなぐぬちゃー)や浜んかいうりてぃ、白砂(しるしな)くだみいるぐとぅなたんでぃ。昔(んかし)ぬ人(ちゅ)ぬ、男(いきがー)肋骨(そーきぶに)一本(てぃちぇー)即(ふすく)。女(いなごー)罰(ばち)かんじ者(むん)でぃち、ぬーんかいやてぃん、人(ちゅ)んかい、男(いきが)んかい、騙さりーやっさんでぃ、あんし、家(やー)ぬ外(ふか)から合図(いぇーじ)ぬあてぃん、ちゅくぃさーなかい、「うー。」んち返事(ふぃじ)さい、夜(ゆる)なーや、戸(はしる)あきたいしいよーんち、母親(いなぐぬうや)ぬならーちさーなかい、いーちきとぉーたんでぃる事(くとぅ)やん。うりが今(なま)までぃちぢち、人(ちゅ)ぬ家(やー)んかい行ちぃーねえー、「ちゃーびらさい。ちゃーびらさい。」んち、二回(たけーん)やかうふくあびるぐとぅなとぉーん。また、家(や)中(なーか)んかいうり人(ちゅ)ん、一回(ちゅけーん)合図(いぇーじ)ぬあてぃん黙とぉーてぃ、なー一回(ちゅけーん)合図(いぇーじ)さわる、「うー。」んち合図(いぇーじ)するぐとぅなとぉーん。また、なーてぃちぬ話(はな)しいや、アカマターやてぃんハブやてぃん、古鍋(ふるなーび)ぬ蓋、地面(ぢい)ぬ上(うぃ)んかいうぬまましてぃほーりそうてぃ、うりが下(しちゃ)うてぃ、アカマターんでぇーハブんでぇーぬ卵(くーが)なち、うりがししでぃとぉーるアカマターやハボー、人(ちゅ)騙かちゃい、女達(いなぐぬちゃー)騙かちゃいすくとぅんち、古くなてぃ、ちりむしりさーにちかーらんならわー、木(きー)ぬ枝(ゆだ)んかいかきてぃうちゅたん。私達(わったー)が幼少(くーさ)いぬー、豚小屋(ふーる)ぬ側(すば)ぬ木(きー)ぬ枝(ゆだ)んかい、いくちんかきてぃうかっとぉーたしが、うれえー先(さち)ぬ話(はな)しいちちゃーに、あんせーならんでぃち言ゃーなかい、古鍋蓋(ふるなーびんたー)木(きー)ぬ枝(ゆだ)んかいさぎてぃうちぇーるばーやしが。またぬ話(はな)しいや、旧暦(きゅぬ)三月三日(さんぐゎちさんにち)ねえー、女達(いなぐぬちゃー)やうじゅーすがてぃ、御馳走(くゎっちー)むっち浜下り(はまうり)すしが、首里(すい)那覇(なーふゎ)ぬ金持達(うぇーきたー)や、うぬアカマターんかい恨みむっち、下男達(ぢにんぬちゃー)んかいアカマターとぅめーらち、うりうじゅーんかいいってぃ、アカマターうじゅーんでぃ言ち、むっちいちゅんでぃ。あんし浜んかいうりゆうさん女達(いなぐぬちゃー)や、白砂(しるしな)むっちちゃーにくだみらすんでぃ。旧暦(きゅぬ)三月三日(さんぐゎちさんにち)に浜下り(はまうり)ぬ話(はな)しい。〔共通語訳〕 浜下り。旧暦三月三日に女達が重箱に御馳走を詰めて、浜下りをする話。ずうっと大昔は、動物達はみんな人間も一緒に暮らしていたそうだ。そして、或る時或る所で、とても美しい娘が生まれたので、親達は大変喜んで、今度はよくできたと思っていたのですが、年頃になって、あちらこちら嫁の貰い手がきても、その娘は顔を横に振ってどこにも嫁に行かずに、地頭代(じとぅでー)や役人達が、「嫁になって下さい。」と頼みにきても、一向に應と答えず、そうするうちにその娘の身体が次第に変わったので、母親が、「貴方は義理、恥もわきまえ、よく親の孝もしているが、ただ一つ、余所から嫁の貰い手が来ても、一向に顔を横に振って應は受けないが、私が見て、お前の身体は変わっているが、どうしたのか。」と問いますと、その娘は、「どのようにして忍び込んでくるのかわからないが、私の側に大変な美青年が来て泊まり、朝方になると、私が寝ている間に家に帰っていき、来ても、話し合いや物語も何も無いのだが、その人と一緒に寝て何をしていると、身体が変わっている。」と母親に話しましたので、母親は、「それでは、その男の人はどこの誰なのか。」と尋ねますと、その娘は、「その人は、ただ一声ずつしか物は言わず、二回三回とは声を出さず、それで家に帰っていく時にも、何も言わないで帰ってしまうので、今まで、どこの誰だかわからない。だが確かに、見るべきものが見えなくなっているので、あのう、何と言うか、私の身体は変わっているので、それでどこにも嫁に行かないのだ。」と母親に言いますと、親たちは心配して、隣近所の人達に、「その様な事になっているが、誰かわかる人はいませんか。」と話しますと、その話しを聞いた人達は、「それではみんなで考えて一緒に探そう。」と話し合っている時、その友達の漁師が、漁をする為に或る夜海に下りると、潮は満潮で海に入れないので、少しの間、ここに座っていて、潮が引いてからでないと海に下りれないからと思って、座って潮が引くのを待っていると、後ろの洞窟の方で、誰やら小声でヒソヒソ話し合っているのがいます。そうすると、「ああ、私の他にも漁に来た人がいるんだなあ。」と思ったのだが、どうも普通の人の話し声と違っているが、小声で話し合っているので、十分には聞き取れないので、次第次第に洞窟に近寄っていって聞きますと、中の方で話していますので、何の話しだろうと思って聞き耳を立てていますと、一人の者が、「私はねえ、あそこの美しい娘を騙して、その娘を孕ませてある。そしてその娘に七袋の子精子を入れてあるから、近いうちに子どもが生まれるよ。」と言いますと、もう一人の者が、「おい、お前はまだわからないのか。アカマタが人間の娘を孕ませている時に、もしその孕んだ娘が浜に下りて白砂を踏んだら、すぐに巣守になって全部墜胎てしまうのに、絶対お前の子どもを人間の娘が産む事はできないよ。」と話し合っています。するとその者は、「いやいや、あの娘はその様な事はしないはず。確かに七つの子どもが生まれるよ。」と言っていたそうだ。それを聞くと、隣の娘は妊娠しているが相手がわからないという話しだから、確かにこれに間違いないと思って、ゆっくりゆっくりその場を立ち去り、家に帰って隣の人達を起こして、その親達に、「私は今しがた、あそこの白浜の側の洞窟でこの話を聞いたが、それが本当かどうかはわからないが。」と話しますと、今度は母親が、「もしそれが本当かどうか。よし確かめてみよう。私達の娘か別の娘かわからないから。」という事で、糸をたくさん紡ぎ込んだ糸籠を、娘の寝室に持っていき、糸の先には針を付けて、母親が、「あのね、どこの誰とも言わず、話もしないで知らん顔で来て、寝て、朝方になるとそのまま帰って行くの繰り返しをするならねえ、お前と一緒に寝てそれをする時に、その人の着物の襟首にこの針を刺しておきなさい。そしたら糸籠の糸が出ていくから、明日の朝その糸を辿って行ったら、どこの誰かがわかるから。」と、その娘に言いつけて、その糸籠を置いて、その娘には、もしかしたらアカマタかもしれないとは言わないでいると、その娘も承知しました。すると、その夜もこの娘の所にあの美青年が来て、「はい。」と小声で呼びますので、「どなたですか。」と聞いても返事がありません。ただ一声かけただけですので、そのままにしていますと、中に入って来て娘の側に寝たのです。するとその娘は、母親に言われたのを思い出して、針を用意して待っていますと、その青年が一緒に寝て、それをする時にその針を男の着物の襟首と思って、針を刺したのです。その針と糸は強く結び付けてありますので、朝方になってその男が出ていきますと、糸籠の糸はそのまま出つづけていきました。明朝になりますと、母親も二人でその糸を辿って行きますと、白浜の側の洞窟に着いたので、「ああ、これは確かにここに人がいるのかもしれない。」と思い、「御免下さい。実はどこそこから尋ねてきた者ですが。」と、声をかけても何の返事も聞こえませんので、次第次第に中の方に入って行きますと、大きなアカマタの瞼に、あの針が突き立っていて、そのアカマタはそこから顔を突き出してきたのです。すると、「ああ、これは間違いなくアカマタだったのだ。」と、正体がわかり、その親子はそこから走って浜に下りたのです。そうすると、その娘の孕んでいる子どもはアカマタの子どもですから、浜に下りて白砂を踏むと、孕んでいるのは全部巣守になって墜胎てしまったとの事です。そしてその時から、丁度その日が旧暦の三月三日だったので、その日には女の人は浜に下りて、白砂を踏むようになったのです。昔の人は、男は肋骨一本不足、女は罰被り者といって、何にでも人にでも男にも騙されやすいという事だから、家の外から合図があっても、一声ですぐ、「はい。」と返事しないで、もう一度合図があった後に返事をし、夜は戸も開けるようにしなさいよと、母親が教えて言づけていたそうです。それが今までも続いていて、他人の家に行っても、「御免下さい、御免下さい。」と、二回以上呼ぶ様になっています。また、家の中にいる人も、一回外から合図があっても黙っていて、もう一回合図があった時に、「はい。」と返事する様になっています。また、もう一つの話は、アカマタでもハブでも、古くなった鍋の蓋を地面の上にそのまま置いて、その下でアカマタかハブが卵を産み、それが孵化したアカマタやハブは、人を騙したり、女達を騙すという事で、古くなって切れたり毟れたりして使えなくなったら、木の板に引っ掛けておいたのです。私達が幼少の頃は、豚小屋の側の木の枝に、幾つも掛けておいてあったが、それは先の話を聞いているので、それではいけないと思い、古い鍋蓋は木の枝に下げておいたのである。またの話は、旧暦の三月三日には、女達は重箱に御馳走を詰めて、それを持って浜に下りる様になっているが、首里や那覇の金持ち達は、そのアカマタに恨みを持ち、下男達にアカマタを探させて、それを煮て御重に入れて、アカマタ御重と言って持っていくとの事。そして浜に下りる事のできない娘達には、白砂を持ってきて踏ませたそうです。これが旧暦三月三日に浜下りをする話。識名隆人翻字 T5B2 |
全体の記録時間数 | 11:04 |
物語の時間数 | 11:04 |
言語識別 | 方言 |
音源の質 | ◎ |
テープ番号 | - |
予備項目1 | - |