昔ですねえ、ある旅人が、「こっちに泊めてもらえませんか。」って聞いたら、「私の家は貧乏で夫婦だげしか寝るところはないし、被りものもないから、後ろの方は家も大きいし、被りものも沢山あってお金持ちで何も困っていない家だから、向こうに行って泊めてもらったらどうですかあ。」って帰したそうです。それでその旅人は、「ああ、そうですか、どうもお邪魔しました。」って、また後ろの方の大金持ちの所に行って、「もしもし、旅の者ですが、こちらに泊めてもらえませんですか。一夜だけでもお願いします。」と言ったら、「僕たちは家は大きいけれど、人数も多いし、どこにも部屋が空いているところはないですよ。それより前のお爺さん、お婆さんの家は、家は小さくても二人だけだから、向こうの方にお願いして、向こうで泊ったらどうですかあ。」って、そこからも断わられたそうです。「ああ、そうですか、どうもすみませんでした。」って。そこからも引っ返して、また老人の二人っきりの小さいお家に行って、「後ろの家でも、こうして断わられたもんだから、どうにも出来ません。もう夜も遅くなっているし、すみませんけど、壁にひっついてでもどこにでもいいですから、こちらの方に一夜だけでも泊めて下さい。」と言ったら、「今日は大晦日でもあるし、泊めたら困りますねえ。何も食べるものもないですよう。」「何も食べるのもなくてもいいです。ただ一晩だけですから泊めて下さい。」って。旅の人がもうしよっちゅうせがむもんですから、「それじゃあ、食べるものもないですが、そこらへんにでもいいですか、じゃあ一夜だけだったら泊めてあげましょう。」って。お爺さん、お婆さんは、泊めることにしました。それで、そのお爺さん、お婆さんは、「今日は大晦日というけどなんにも炊くのもないし、カーガー〔すまし〕お汁(つゆ)でもいいですかあ。お腹すいているでしょう。どうぞ召し上って下さい。」と言ってすすめました。そうすると旅の人は、鈴みたいなのを出して、「ああ、そうですか、どうもありがとう。ではこれを振って祈ったら、お爺さん、お婆さんの希望している物は何でも出ますから、これを振って祈って下さい。」と言ったから、お爺さん、お婆さんは、「じゃあ貸して下さい。」と言って、今度は、「もうご飯もないんだから、ご飯を沢山出るように。」って、お願いして鈴を鳴らしたそうです。そしたら、一杯ご飯が出てきて、「ああ、これは楽しいもんだ。うれしいもんだ。それじゃあ、旅の人にも一杯ご飯をあげることができる。」と思って喜んで、お爺さん、お婆さんは旅の人にもご飯をすすめました。そして次は、「ご飯だげではどうもまずい。おかずもあったら。」と思って、またお願いしました。そしてお祈りをしてまたも、「おかずが沢山出るように。」ってお祈りをして鈴を鳴らしたそうです。そしたら、おいしいお肉やら野菜やら、いろんな御馳走が沢山出てきて、「これは珍らしいもんだ。こんなこともあるもんか。」と思って、お爺さん、お婆さんは大変喜んで、「これはどうもありがとう。どうぞ召し上って下さい。」って、旅の人にもおすすめして、旅の人も喜んで一諸にあがって、そこで一夜を明かしたそうです。そいで一夜を明かして朝になったから、この旅の人は、「どうもありがとうございましたお爺さん、お婆さん。ではお元気で。」と玄関を出たそうです。すると、後ろの大きい金持ちの家族の人がこの話を聞いて、この旅の人が玄関を出ると同時に、後ろの金持ちの人が、「もしもし、旅の人お待ち下さい。私の家に一夜泊めてあげますから、どうぞお戻り下さい。」と言って、戻るように頼んだそうです。すると、頼まれた通り、旅の人は、その大金持ちの家に引っ返してまたそこで一夜過ごすようになったそうです。そいで、その金持ちの家に行くと、「もしもし、旅のお方、その鈴を貸して下さい。」と言ったそうです。「そうですか、はい貸してあげましょう。この鈴はあんた方がお祈りする通り、なんでも出てくるから、お祈りをしてから鈴を鳴らして下さい。」と言って貸したそうです。そうすると、大金持ちの家では、喜んでお祈りをして鈴を鳴らしたそうです。鈴を鳴らすと同時に家族の者は皆お猿に化けてしまったそうです。それで、猿がキャーキャー言うもんだから、旅の人は、「もうこっちではたまらない。」と言って引っ返したそうです。前のお爺さんお婆さんはびっくりして、「こんなにやかましいお猿が毎晩来たら、寝ることもできないし、これはどうしたらいいでしょう。」と困ってしまって、この旅の人に、「お猿に化けたのが来てやかましいだが、どうにかできないですかねえ。」と聞いたそうです。「ああ、そうですか。お爺さんお婆さん、これ教えてあげましょう。猿がやかましいのだったら、川にあるマー石(いさー)というのを持ってきて、これを焼いて玄関の両方に置いとおけば、お猿は大変座るのが好きだから、必ず猿はこっちに座ると思います。座ったら尻が焼けて痛いもんだから、みんな山に戻って行くと思います。その時は後ろの大きい金持ちのお家はお爺さん、お婆さん二人で住むようにして下さい。私の教えはそれだけです。」って言って、旅の人は引っ返したそうです。言う通りにマー石(いさー)を持ってきて焼いて玄関の両方に置いておくと、毎晩来るそのお猿が来てからに座って、「あっ、痛い痛い。」と言って逃げたそうです。そして、旅の人が言うた通り、後ろの大きい金持らの家はこの年寄り夫婦のお家になったそうです。それから、そのお猿の尻は焼けてあんなにツルツルになったそうです。
| レコード番号 | 47O412878 |
|---|---|
| CD番号 | 47O41C115 |
| 決定題名 | 猿長者(共通語) |
| 話者がつけた題名 | - |
| 話者名 | 伊波澄 |
| 話者名かな | いはすみ |
| 生年月日 | 19150226 |
| 性別 | 女 |
| 出身地 | 石川市伊波 |
| 記録日 | 19820803 |
| 記録者の所属組織 | 沖縄口承文芸学術調査団 |
| 元テープ番号 | 石川市T30B06 |
| 元テープ管理者 | 沖縄伝承話資料センター |
| 分類 | 本格昔話 |
| 発句(ほっく) | - |
| 伝承事情 | - |
| 文字化資料 | いしかわの民話昔話P76 |
| キーワード | 貧乏,お金持ち,大晦日,鈴,猿,マー石 |
| 梗概(こうがい) | 昔ですねえ、ある旅人が、「こっちに泊めてもらえませんか。」って聞いたら、「私の家は貧乏で夫婦だげしか寝るところはないし、被りものもないから、後ろの方は家も大きいし、被りものも沢山あってお金持ちで何も困っていない家だから、向こうに行って泊めてもらったらどうですかあ。」って帰したそうです。それでその旅人は、「ああ、そうですか、どうもお邪魔しました。」って、また後ろの方の大金持ちの所に行って、「もしもし、旅の者ですが、こちらに泊めてもらえませんですか。一夜だけでもお願いします。」と言ったら、「僕たちは家は大きいけれど、人数も多いし、どこにも部屋が空いているところはないですよ。それより前のお爺さん、お婆さんの家は、家は小さくても二人だけだから、向こうの方にお願いして、向こうで泊ったらどうですかあ。」って、そこからも断わられたそうです。「ああ、そうですか、どうもすみませんでした。」って。そこからも引っ返して、また老人の二人っきりの小さいお家に行って、「後ろの家でも、こうして断わられたもんだから、どうにも出来ません。もう夜も遅くなっているし、すみませんけど、壁にひっついてでもどこにでもいいですから、こちらの方に一夜だけでも泊めて下さい。」と言ったら、「今日は大晦日でもあるし、泊めたら困りますねえ。何も食べるものもないですよう。」「何も食べるのもなくてもいいです。ただ一晩だけですから泊めて下さい。」って。旅の人がもうしよっちゅうせがむもんですから、「それじゃあ、食べるものもないですが、そこらへんにでもいいですか、じゃあ一夜だけだったら泊めてあげましょう。」って。お爺さん、お婆さんは、泊めることにしました。それで、そのお爺さん、お婆さんは、「今日は大晦日というけどなんにも炊くのもないし、カーガー〔すまし〕お汁(つゆ)でもいいですかあ。お腹すいているでしょう。どうぞ召し上って下さい。」と言ってすすめました。そうすると旅の人は、鈴みたいなのを出して、「ああ、そうですか、どうもありがとう。ではこれを振って祈ったら、お爺さん、お婆さんの希望している物は何でも出ますから、これを振って祈って下さい。」と言ったから、お爺さん、お婆さんは、「じゃあ貸して下さい。」と言って、今度は、「もうご飯もないんだから、ご飯を沢山出るように。」って、お願いして鈴を鳴らしたそうです。そしたら、一杯ご飯が出てきて、「ああ、これは楽しいもんだ。うれしいもんだ。それじゃあ、旅の人にも一杯ご飯をあげることができる。」と思って喜んで、お爺さん、お婆さんは旅の人にもご飯をすすめました。そして次は、「ご飯だげではどうもまずい。おかずもあったら。」と思って、またお願いしました。そしてお祈りをしてまたも、「おかずが沢山出るように。」ってお祈りをして鈴を鳴らしたそうです。そしたら、おいしいお肉やら野菜やら、いろんな御馳走が沢山出てきて、「これは珍らしいもんだ。こんなこともあるもんか。」と思って、お爺さん、お婆さんは大変喜んで、「これはどうもありがとう。どうぞ召し上って下さい。」って、旅の人にもおすすめして、旅の人も喜んで一諸にあがって、そこで一夜を明かしたそうです。そいで一夜を明かして朝になったから、この旅の人は、「どうもありがとうございましたお爺さん、お婆さん。ではお元気で。」と玄関を出たそうです。すると、後ろの大きい金持ちの家族の人がこの話を聞いて、この旅の人が玄関を出ると同時に、後ろの金持ちの人が、「もしもし、旅の人お待ち下さい。私の家に一夜泊めてあげますから、どうぞお戻り下さい。」と言って、戻るように頼んだそうです。すると、頼まれた通り、旅の人は、その大金持ちの家に引っ返してまたそこで一夜過ごすようになったそうです。そいで、その金持ちの家に行くと、「もしもし、旅のお方、その鈴を貸して下さい。」と言ったそうです。「そうですか、はい貸してあげましょう。この鈴はあんた方がお祈りする通り、なんでも出てくるから、お祈りをしてから鈴を鳴らして下さい。」と言って貸したそうです。そうすると、大金持ちの家では、喜んでお祈りをして鈴を鳴らしたそうです。鈴を鳴らすと同時に家族の者は皆お猿に化けてしまったそうです。それで、猿がキャーキャー言うもんだから、旅の人は、「もうこっちではたまらない。」と言って引っ返したそうです。前のお爺さんお婆さんはびっくりして、「こんなにやかましいお猿が毎晩来たら、寝ることもできないし、これはどうしたらいいでしょう。」と困ってしまって、この旅の人に、「お猿に化けたのが来てやかましいだが、どうにかできないですかねえ。」と聞いたそうです。「ああ、そうですか。お爺さんお婆さん、これ教えてあげましょう。猿がやかましいのだったら、川にあるマー石(いさー)というのを持ってきて、これを焼いて玄関の両方に置いとおけば、お猿は大変座るのが好きだから、必ず猿はこっちに座ると思います。座ったら尻が焼けて痛いもんだから、みんな山に戻って行くと思います。その時は後ろの大きい金持ちのお家はお爺さん、お婆さん二人で住むようにして下さい。私の教えはそれだけです。」って言って、旅の人は引っ返したそうです。言う通りにマー石(いさー)を持ってきて焼いて玄関の両方に置いておくと、毎晩来るそのお猿が来てからに座って、「あっ、痛い痛い。」と言って逃げたそうです。そして、旅の人が言うた通り、後ろの大きい金持らの家はこの年寄り夫婦のお家になったそうです。それから、そのお猿の尻は焼けてあんなにツルツルになったそうです。 |
| 全体の記録時間数 | 8:24 |
| 物語の時間数 | 8:24 |
| 言語識別 | 共通語 |
| 音源の質 | ◎ |
| テープ番号 | - |
| 予備項目1 | - |