昔、正月になると、若水をもらうとの言葉がありますが、正月の若水は、何の意味かということを話します。みじめな生活をしておられるお年寄り夫婦がいたらしい。また、隣には、金持ちがおられたらしい。そこは家族も大勢いて、とても、家庭生活も立派だったというが、その家の人はみな、悪欲が強くて、道具も貧乏人には貸さない。腹をすかせていても、なんにも食べ物でも貸さない。そのように暮らしている金持ちがいた。また、その金持ちの隣のお爺、お婆はみじめな生活をしていたって。そうしているうちに、正月、大晦日になっても、なんにもご馳走になるものを作ることもできないで、火に温まって座っていた、夫婦でね。そこへ、天から白髪のお年寄りが降りていらした。そして、「なぜ、おまえたちは、今日の日に、なんにも食べ物の支度もしないで、そのように火を燃やして、火に温まっているのか。」と聞いたら、「私たちは、金はないし食べ物もない。それで、火を燃やして火にあたっているんですよ。」と言って、「ああ、そういうことなの。」と言われ、「それじゃあ、隣の金持ちの家で、米を入れるカマジー(かます)を借りて来なさい。」と言われた。そうして、借りに行ったが、はじめは貸したがらなかったが、あとは貸してくれたらしい。それで、からのカマジーを鍋の上で揺すると、米が三粒落ちたので、「これで、ご飯を炊きなさい。」と。すると、言うが早いか、ただの二、三粒の米が落ちただけで、鍋一杯のご飯ができた。そうして、また、白髪のお年寄りが懐から何かを出して、お汁も炊きなさいと言うと、すぐに、美味しいお汁ができた。また、肉もでてきた。そのようにしてご馳走を食べさせて、年寄りたちに正月をさせた。そうして、おなか一杯食べたあと、白髪のお年寄りも一緒にそこに泊まった。それから、翌日の朝起きたら、「さあ、水を汲んで来なさい。」と言われたので、「はい。」と言って、井泉で水を汲んで来た。「それで、湯を沸かしなさい。。」と、白髪のお年寄りが言われたとおり湯を沸かすと、「その湯で、夫婦ともども顔も目も鼻も洗って、体も拭きなさい。」と言われたって。そうしたところ、十七、八の若者になっていた。その年寄りがだよ。そのときから、この水は若水と言われているわけさ。その水で洗ったり拭いたりしたから若くなったと。そうしているうちに、「カマジーも借りて来たものだから、返しに行かなければ。」と言って、その翌日カマジーを返しに行ったんでしょう、金持ちの家に。そうしたら、夫婦は若くなって、十七、八の顔になっているから、そこの金持ちたちは不思議に思って、「何てことだ、おまえたち、こんなに若くなってしまって。」と言ったら、神様とは分からずに、「白髪のお年寄りがいらして、そのように物事を教えられて、その人の言いつけどおりにしたら、こうして若くなったさ。」と話をした。そうしたら、「ほんとに不思議なことだ。それだったら、その人を連れて来て、私たちも若くなる方法を習おう。」と。「その方は、おまえたちの家に、まだいらっしゃるか。」と聞くと、「今さっき、出て行ってしまったところよ。」と言ったら、「それじゃあ、馬に乗ってあとを追いかけて行って、その人をお迎えして、その人から物事を習おう。」と。したら、金持ちの家は悪欲であることをその神は知っておられるから、「それでは、おまえたちもそのようにしなさい。」と教えてね。「それだったら、水を汲んで来い、みな浴びなさい。家族中浴びなさい。」と言って浴びたら、貧乏人のように浴びたらね、あのように若くなると、その家族の者は思ったんでしょう、そう思って、湯を沸かして浴びたら、嫡子は猿になった。そこは、藍染屋だったって、染物屋のことさ。藍染屋していた女は烏になった。それから、娘はね別の動物になった。みな、動物になって、飛んでしまって、その金持ちたちはいなくなったわけさ。悪欲が強いものだから、そうなってしまったって。それから、みな、「そこは、私の家だ。」と言って、動物になってからも、自分の家に来たりしたんでしょう。烏になっても、猿になっても、そうしたものだから、また、その白髪のお年寄りに、「家にやって来ては、『私の家を返せ、返せ』と言いますよ。」と言った。それは、白髪のお年寄りが、貧乏人に金持ちの屋敷を与えたのでね、それで、動物になった金持ちの家族が来たって。それで、「そうだったら、海の黒石を火になるくらい焼いてね、猿や烏が来る時分を待っていて、門にそれを置いておきなさい。」と言われて、そのとおりにしたら、猿がやって来て黒石に休もうと座ったものだから、猿の尻は焦がれて、赤くなってしまった。それから、烏は、また、『私の家を返せ、返せ』と、カーカーして叫ぶでしょう、自分の家だったと来ては、そこでカーカーしたらしい。そうしたら、その家に入っている人たちが、『良いことを語れよ烏』と言ったら、だんだん来なくなったわけ。また、猿も、そこで尻を焼いたから来なくなったわけさ。そうして、人間は悪いことはするものではない。真面目にね、ござの模様のように誠すれば、どんな災難もふりかからない、という昔話であるわけさ。また、正月の若水というのは、若くなる。その人たちが、夫婦とも若くなったのでね。それで、それから旧正月の元旦の朝に浴びたり、顔を洗ったりするのは、あの人たちの真似であるわけさ、そうすれば若くなると。今もあるというでしょう。若水とあるよね。
| レコード番号 | 47O422006 |
|---|---|
| CD番号 | 47O42C062 |
| 決定題名 | 猿長者(シマグチ混じり) |
| 話者がつけた題名 | - |
| 話者名 | 金城珍明 |
| 話者名かな | きんじょうちんめい |
| 生年月日 | 18990210 |
| 性別 | 男 |
| 出身地 | 具志川市喜屋武 |
| 記録日 | 19800808 |
| 記録者の所属組織 | 沖縄口承文芸調査団 |
| 元テープ番号 | 具志川市T56 B8 |
| 元テープ管理者 | 沖縄伝承話資料センター |
| 分類 | 本格昔話 |
| 発句(ほっく) | - |
| 伝承事情 | - |
| 文字化資料 | 具志川市史第3巻下261頁 |
| キーワード | 正月,若水,金持ち,貧乏,大晦日,火,夫婦,白髪,猿,藍染屋,黒石, |
| 梗概(こうがい) | 昔、正月になると、若水をもらうとの言葉がありますが、正月の若水は、何の意味かということを話します。みじめな生活をしておられるお年寄り夫婦がいたらしい。また、隣には、金持ちがおられたらしい。そこは家族も大勢いて、とても、家庭生活も立派だったというが、その家の人はみな、悪欲が強くて、道具も貧乏人には貸さない。腹をすかせていても、なんにも食べ物でも貸さない。そのように暮らしている金持ちがいた。また、その金持ちの隣のお爺、お婆はみじめな生活をしていたって。そうしているうちに、正月、大晦日になっても、なんにもご馳走になるものを作ることもできないで、火に温まって座っていた、夫婦でね。そこへ、天から白髪のお年寄りが降りていらした。そして、「なぜ、おまえたちは、今日の日に、なんにも食べ物の支度もしないで、そのように火を燃やして、火に温まっているのか。」と聞いたら、「私たちは、金はないし食べ物もない。それで、火を燃やして火にあたっているんですよ。」と言って、「ああ、そういうことなの。」と言われ、「それじゃあ、隣の金持ちの家で、米を入れるカマジー(かます)を借りて来なさい。」と言われた。そうして、借りに行ったが、はじめは貸したがらなかったが、あとは貸してくれたらしい。それで、からのカマジーを鍋の上で揺すると、米が三粒落ちたので、「これで、ご飯を炊きなさい。」と。すると、言うが早いか、ただの二、三粒の米が落ちただけで、鍋一杯のご飯ができた。そうして、また、白髪のお年寄りが懐から何かを出して、お汁も炊きなさいと言うと、すぐに、美味しいお汁ができた。また、肉もでてきた。そのようにしてご馳走を食べさせて、年寄りたちに正月をさせた。そうして、おなか一杯食べたあと、白髪のお年寄りも一緒にそこに泊まった。それから、翌日の朝起きたら、「さあ、水を汲んで来なさい。」と言われたので、「はい。」と言って、井泉で水を汲んで来た。「それで、湯を沸かしなさい。。」と、白髪のお年寄りが言われたとおり湯を沸かすと、「その湯で、夫婦ともども顔も目も鼻も洗って、体も拭きなさい。」と言われたって。そうしたところ、十七、八の若者になっていた。その年寄りがだよ。そのときから、この水は若水と言われているわけさ。その水で洗ったり拭いたりしたから若くなったと。そうしているうちに、「カマジーも借りて来たものだから、返しに行かなければ。」と言って、その翌日カマジーを返しに行ったんでしょう、金持ちの家に。そうしたら、夫婦は若くなって、十七、八の顔になっているから、そこの金持ちたちは不思議に思って、「何てことだ、おまえたち、こんなに若くなってしまって。」と言ったら、神様とは分からずに、「白髪のお年寄りがいらして、そのように物事を教えられて、その人の言いつけどおりにしたら、こうして若くなったさ。」と話をした。そうしたら、「ほんとに不思議なことだ。それだったら、その人を連れて来て、私たちも若くなる方法を習おう。」と。「その方は、おまえたちの家に、まだいらっしゃるか。」と聞くと、「今さっき、出て行ってしまったところよ。」と言ったら、「それじゃあ、馬に乗ってあとを追いかけて行って、その人をお迎えして、その人から物事を習おう。」と。したら、金持ちの家は悪欲であることをその神は知っておられるから、「それでは、おまえたちもそのようにしなさい。」と教えてね。「それだったら、水を汲んで来い、みな浴びなさい。家族中浴びなさい。」と言って浴びたら、貧乏人のように浴びたらね、あのように若くなると、その家族の者は思ったんでしょう、そう思って、湯を沸かして浴びたら、嫡子は猿になった。そこは、藍染屋だったって、染物屋のことさ。藍染屋していた女は烏になった。それから、娘はね別の動物になった。みな、動物になって、飛んでしまって、その金持ちたちはいなくなったわけさ。悪欲が強いものだから、そうなってしまったって。それから、みな、「そこは、私の家だ。」と言って、動物になってからも、自分の家に来たりしたんでしょう。烏になっても、猿になっても、そうしたものだから、また、その白髪のお年寄りに、「家にやって来ては、『私の家を返せ、返せ』と言いますよ。」と言った。それは、白髪のお年寄りが、貧乏人に金持ちの屋敷を与えたのでね、それで、動物になった金持ちの家族が来たって。それで、「そうだったら、海の黒石を火になるくらい焼いてね、猿や烏が来る時分を待っていて、門にそれを置いておきなさい。」と言われて、そのとおりにしたら、猿がやって来て黒石に休もうと座ったものだから、猿の尻は焦がれて、赤くなってしまった。それから、烏は、また、『私の家を返せ、返せ』と、カーカーして叫ぶでしょう、自分の家だったと来ては、そこでカーカーしたらしい。そうしたら、その家に入っている人たちが、『良いことを語れよ烏』と言ったら、だんだん来なくなったわけ。また、猿も、そこで尻を焼いたから来なくなったわけさ。そうして、人間は悪いことはするものではない。真面目にね、ござの模様のように誠すれば、どんな災難もふりかからない、という昔話であるわけさ。また、正月の若水というのは、若くなる。その人たちが、夫婦とも若くなったのでね。それで、それから旧正月の元旦の朝に浴びたり、顔を洗ったりするのは、あの人たちの真似であるわけさ、そうすれば若くなると。今もあるというでしょう。若水とあるよね。 |
| 全体の記録時間数 | 8:38 |
| 物語の時間数 | 8:38 |
| 言語識別 | 方言 |
| 音源の質 | ◎ |
| テープ番号 | - |
| 予備項目1 | - |