碁‥‥御主加那志前は、渡嘉敷ペークのことを大変気に入り、碁を一緒に打ったりしていた。ペークは、碁を打つとき正座して座るべきだが、正座はしないで、ハイまたハイまたして、声をかけながら碁を打ったので、同じ御主加那志前の臣下が、「おい、おまえは御主加那志前に向かって、ハイまたハイして碁を打つのか、おまえの碁の打ち方は、ご無礼にあたるぞ。」と言ったから、御主加那志前のところへは行かなくなってしまった。そうしたら、御主加那志前は、「どうしてペークーは来ないで、おまえが来たか。」と言うと、「はい、碁を打つとき、ハイまたハイするから御主加那志前に対してご無礼になると言ったら、ペークーは『もう御主加那志前とは碁は打たない』と言っております。」と言ったから、「私はこれが楽しみなのに。すぐに来させなさい。」と言われ、それで、また、同じように打つようになったそうだよ。
指味見‥‥御主加那志前の日に三度の食事は、ペークが差し上げる係だったので、お碗に指を突っ込んで、いつも同じ温度に、熱すぎず冷たすぎないように計っていた。そうして、御主加那志前は、いつも、毎日の食事が同じ温かさであることを珍しくお思いになり、ペークはどんなふうにして食事を持って来るのかと、指を嘗め障子に穴をあけて見ると、ペークは、お碗に指を入れて加減をみているようだった。御主加那志前が、「ペークー、ちょっと来い。」と呼ばれたので、ペークは、「何でございましょうか。」と。「食べ物の清潔というのは、何が清潔だというのかね。」と言われた。指を入れて加減を見ているのを知れてしまっているものだから、「食べ物の清潔というのは、見ないことが清潔でございます。」と答えた。御主加那志前は、もう食べてしまっているから、「そうだな。」と言って咎めなかった。見なかったなら清潔だということだね。
棚芋作りと低頭‥‥それから、ペークはたいそう知恵があって儲けようとあちこち旅に出たものの、なかなか儲けられず、いつも貧乏暮らしであった。ペークは北谷に田舎下りして、芋を作り、ヤックヮ(棚)に芋をはわせていた。ちょうど今の野菜棚と同じように。そうして、芋の節々を全部、土で固めておいたので、ペークの芋はよく実り、門から庭にかけて、ほとんど芋を植えてあった。そうして、「今日は、わが家に御主加那志前が遊びにおいでになられるとのことだよ。」と言って、芋の土を洗い落としてぶら下がったままにして、芋で七品の会席の御馳走を作って出したって。芋を天麩羅にしたり、芋を炒めたり、あれこれ芋だけで。作って、準備ができると、「御主加那志前は、やがてお出でになられるぞ。」と言って、夫婦は正座して、戸口のほうに座っていた。「やがて、お出でになられて、私たち二人におじぎをしてから入られるよ。」とペークが言うと、妻は、「そんなことは言ってはいけません、御主加那志前が、どうして、私たちにおじぎをするんですか。」と言った。そうして、入り口はおじぎをさせるつもりで芋のヤックヮを作って低くしてあるから、少しかがまないと入れないので、「ほら、見てごらん、御主加那志前がお出でになられたが、私たちにこのように腰を曲げておじぎをして入って来られたでしょ。」と、そうだったんだって。
船手役‥‥ペークは、船手の仕事にあたるために出かけたが、わざとお昼どきに、船手の儲けをイユグムイに捨てるから拾いなさいと言った。世間の人はみな、火をつけてお昼ご飯を炊こうとしているところに、ペークが、「船手の儲けを捨てるから、みんなで拾いなさい。」と言ったので、みんなは釜の火に水をかけて消して、イユグムイに駆けつけた。すると、百五十、たったの三厘。一厘、二厘、三厘、ミーフガーグヮー(穴があいている寛永通宝のこと)を投げてから、首里三平等のたくさんの人を騒がせて、昼食を食べ損なわせてあったって。
味噌と花鉢‥‥それから、今度は、御殿で働いたときの話。御主加那志前のもとで働いていたが、ペークはとても貧乏者だったというから、御主加那志前が、「おい、ペークー、おまえは味噌をあげたら、持って行くかね。」とおっしゃられたら、「はい、ありがとうございます。頂きます。」と言った。御主加那志前は、ペークが味噌をどんなふうにして持って行くか楽しみであった。すると、御主加那志前がお座りになっているところの正面に植えてある芭蕉の葉を二つ切って火にあぶり、それを重ねてしばり鉢のようにみたて、また、御主加那志が眺められる花、庭に植えられている花を御主加那志の目の前で切ってから、「それでは、そのくらい貰わしてください。」と言って、桶のいっぱい貰い、庭から取った花をさして、わざとまた、「花木だよ。」と言って貰って行ったそうだ。御主加那志前が、正面にして眺められる花まで切ってから、担いで行って、いくらでも、物を貰って行ったそうだ。このように、いつも御主加那志前はペークに負けたそうだ。
正月御馳走と煙‥‥首里三平等、那覇四町を城から眺められる物見といって、ヒラティー石が積まれているところがあるが、そこに座っていた。御主加那志前には使いの者が何十人といるでしょう。そこで、みんなをつらなって座らせ、大晦日のようすを一緒に眺めていた。首里でも那覇でも正月の御馳走の肉を煮る煙が立ちのぼっていた。御主加那志前は、「どこの家でも正月の御馳走の肉を煮ると煙を上げているが、ペークーたちは煙が出てない。正月はしないのかな。」と言ったら、ペークは、「そうではございません、うちも炊かせております。」「だが、煙はのぼってないではないか。」「はい、一年に一回の正月ですから、煙を出しながら煮るのではなく、炭で炊くように言いつけてあります。」と言った。それで、御主加那志前は、使いの者に、ペークの家の様子を見に行かせた。すると、「ペークーの家は正月の準備をしてないです。真っ暗で火を燃やす様子はなかったです。」と言ったから、御主加那志前は、「おまえが、肉を持って行ってあげなさい。」と言って、使いの者に持たせたら、ペークの家でも煙をどんどん上げながら、肉を炊いたようです。
お祝い‥‥ペークは歳が明けたら、明後日は、四十九歳のお祝いだったようで、ペークはいたずらしようと、友だちを呼んでお祝いをしたそうだ。そうして、肉や何かも炊いて少々の御馳走を作って、友だち全部を呼んだそうだ。「行って様子を見て来い。」と言って、御主加那志前が使者を行かせたら、「はあ、おまえも来てくれたね、おまえも来てくれたねと、ペークーはとても喜んでいましたよ。」と言った。また、そのあとも、「おまえも、行って様子を見て来い。」と、別の使いの者を行かせると、「あの、今は御馳走がなくなってしまったのか、上座と台所を行ったり来たりして、嫌な顔をしていました。」と言った。すると、御主加那志前は、「それじゃ、準備してある会席を全部、持って行け。」と言って、御馳走をペークのところへ持たせたら、またチンチリモーカー(飛び跳ねて)して喜んだ。そうして、いたずらなものだから、別の使いを出したら、「とても喜んでいましたよ。ハンチゲーリティ(反り返って)飛び跳ねて歩いています、上座と台所を。」「ああ、そうか。」と。賢いので、いつも負けておられたって。ひょうきんなペークーは賢い奴でもあったので、とても気に入られていたって、御主加那志前に。
| レコード番号 | 47O421082 |
|---|---|
| CD番号 | 47O42C034 |
| 決定題名 | 渡嘉敷ペーク(シマグチ) |
| 話者がつけた題名 | - |
| 話者名 | 久高トシ |
| 話者名かな | くだかとし |
| 生年月日 | 19000810 |
| 性別 | 女 |
| 出身地 | 具志川市髙江洲 |
| 記録日 | 19800801 |
| 記録者の所属組織 | 沖縄口承文芸調査団 |
| 元テープ番号 | 具志川市T32 A12 |
| 元テープ管理者 | 沖縄伝承話資料センター |
| 分類 | 笑話 |
| 発句(ほっく) | - |
| 伝承事情 | - |
| 文字化資料 | 具志川市史第3巻下606頁 通観692頁 |
| キーワード | 渡嘉敷ペーク,碁,御主加那志前,指味見,棚芋,低頭,船手役,みそ,花鉢,正月 |
| 梗概(こうがい) | 碁‥‥御主加那志前は、渡嘉敷ペークのことを大変気に入り、碁を一緒に打ったりしていた。ペークは、碁を打つとき正座して座るべきだが、正座はしないで、ハイまたハイまたして、声をかけながら碁を打ったので、同じ御主加那志前の臣下が、「おい、おまえは御主加那志前に向かって、ハイまたハイして碁を打つのか、おまえの碁の打ち方は、ご無礼にあたるぞ。」と言ったから、御主加那志前のところへは行かなくなってしまった。そうしたら、御主加那志前は、「どうしてペークーは来ないで、おまえが来たか。」と言うと、「はい、碁を打つとき、ハイまたハイするから御主加那志前に対してご無礼になると言ったら、ペークーは『もう御主加那志前とは碁は打たない』と言っております。」と言ったから、「私はこれが楽しみなのに。すぐに来させなさい。」と言われ、それで、また、同じように打つようになったそうだよ。 指味見‥‥御主加那志前の日に三度の食事は、ペークが差し上げる係だったので、お碗に指を突っ込んで、いつも同じ温度に、熱すぎず冷たすぎないように計っていた。そうして、御主加那志前は、いつも、毎日の食事が同じ温かさであることを珍しくお思いになり、ペークはどんなふうにして食事を持って来るのかと、指を嘗め障子に穴をあけて見ると、ペークは、お碗に指を入れて加減をみているようだった。御主加那志前が、「ペークー、ちょっと来い。」と呼ばれたので、ペークは、「何でございましょうか。」と。「食べ物の清潔というのは、何が清潔だというのかね。」と言われた。指を入れて加減を見ているのを知れてしまっているものだから、「食べ物の清潔というのは、見ないことが清潔でございます。」と答えた。御主加那志前は、もう食べてしまっているから、「そうだな。」と言って咎めなかった。見なかったなら清潔だということだね。 棚芋作りと低頭‥‥それから、ペークはたいそう知恵があって儲けようとあちこち旅に出たものの、なかなか儲けられず、いつも貧乏暮らしであった。ペークは北谷に田舎下りして、芋を作り、ヤックヮ(棚)に芋をはわせていた。ちょうど今の野菜棚と同じように。そうして、芋の節々を全部、土で固めておいたので、ペークの芋はよく実り、門から庭にかけて、ほとんど芋を植えてあった。そうして、「今日は、わが家に御主加那志前が遊びにおいでになられるとのことだよ。」と言って、芋の土を洗い落としてぶら下がったままにして、芋で七品の会席の御馳走を作って出したって。芋を天麩羅にしたり、芋を炒めたり、あれこれ芋だけで。作って、準備ができると、「御主加那志前は、やがてお出でになられるぞ。」と言って、夫婦は正座して、戸口のほうに座っていた。「やがて、お出でになられて、私たち二人におじぎをしてから入られるよ。」とペークが言うと、妻は、「そんなことは言ってはいけません、御主加那志前が、どうして、私たちにおじぎをするんですか。」と言った。そうして、入り口はおじぎをさせるつもりで芋のヤックヮを作って低くしてあるから、少しかがまないと入れないので、「ほら、見てごらん、御主加那志前がお出でになられたが、私たちにこのように腰を曲げておじぎをして入って来られたでしょ。」と、そうだったんだって。 船手役‥‥ペークは、船手の仕事にあたるために出かけたが、わざとお昼どきに、船手の儲けをイユグムイに捨てるから拾いなさいと言った。世間の人はみな、火をつけてお昼ご飯を炊こうとしているところに、ペークが、「船手の儲けを捨てるから、みんなで拾いなさい。」と言ったので、みんなは釜の火に水をかけて消して、イユグムイに駆けつけた。すると、百五十、たったの三厘。一厘、二厘、三厘、ミーフガーグヮー(穴があいている寛永通宝のこと)を投げてから、首里三平等のたくさんの人を騒がせて、昼食を食べ損なわせてあったって。 味噌と花鉢‥‥それから、今度は、御殿で働いたときの話。御主加那志前のもとで働いていたが、ペークはとても貧乏者だったというから、御主加那志前が、「おい、ペークー、おまえは味噌をあげたら、持って行くかね。」とおっしゃられたら、「はい、ありがとうございます。頂きます。」と言った。御主加那志前は、ペークが味噌をどんなふうにして持って行くか楽しみであった。すると、御主加那志前がお座りになっているところの正面に植えてある芭蕉の葉を二つ切って火にあぶり、それを重ねてしばり鉢のようにみたて、また、御主加那志が眺められる花、庭に植えられている花を御主加那志の目の前で切ってから、「それでは、そのくらい貰わしてください。」と言って、桶のいっぱい貰い、庭から取った花をさして、わざとまた、「花木だよ。」と言って貰って行ったそうだ。御主加那志前が、正面にして眺められる花まで切ってから、担いで行って、いくらでも、物を貰って行ったそうだ。このように、いつも御主加那志前はペークに負けたそうだ。 正月御馳走と煙‥‥首里三平等、那覇四町を城から眺められる物見といって、ヒラティー石が積まれているところがあるが、そこに座っていた。御主加那志前には使いの者が何十人といるでしょう。そこで、みんなをつらなって座らせ、大晦日のようすを一緒に眺めていた。首里でも那覇でも正月の御馳走の肉を煮る煙が立ちのぼっていた。御主加那志前は、「どこの家でも正月の御馳走の肉を煮ると煙を上げているが、ペークーたちは煙が出てない。正月はしないのかな。」と言ったら、ペークは、「そうではございません、うちも炊かせております。」「だが、煙はのぼってないではないか。」「はい、一年に一回の正月ですから、煙を出しながら煮るのではなく、炭で炊くように言いつけてあります。」と言った。それで、御主加那志前は、使いの者に、ペークの家の様子を見に行かせた。すると、「ペークーの家は正月の準備をしてないです。真っ暗で火を燃やす様子はなかったです。」と言ったから、御主加那志前は、「おまえが、肉を持って行ってあげなさい。」と言って、使いの者に持たせたら、ペークの家でも煙をどんどん上げながら、肉を炊いたようです。 お祝い‥‥ペークは歳が明けたら、明後日は、四十九歳のお祝いだったようで、ペークはいたずらしようと、友だちを呼んでお祝いをしたそうだ。そうして、肉や何かも炊いて少々の御馳走を作って、友だち全部を呼んだそうだ。「行って様子を見て来い。」と言って、御主加那志前が使者を行かせたら、「はあ、おまえも来てくれたね、おまえも来てくれたねと、ペークーはとても喜んでいましたよ。」と言った。また、そのあとも、「おまえも、行って様子を見て来い。」と、別の使いの者を行かせると、「あの、今は御馳走がなくなってしまったのか、上座と台所を行ったり来たりして、嫌な顔をしていました。」と言った。すると、御主加那志前は、「それじゃ、準備してある会席を全部、持って行け。」と言って、御馳走をペークのところへ持たせたら、またチンチリモーカー(飛び跳ねて)して喜んだ。そうして、いたずらなものだから、別の使いを出したら、「とても喜んでいましたよ。ハンチゲーリティ(反り返って)飛び跳ねて歩いています、上座と台所を。」「ああ、そうか。」と。賢いので、いつも負けておられたって。ひょうきんなペークーは賢い奴でもあったので、とても気に入られていたって、御主加那志前に。 |
| 全体の記録時間数 | 9:30 |
| 物語の時間数 | 9:30 |
| 言語識別 | 方言 |
| 音源の質 | ○ |
| テープ番号 | - |
| 予備項目1 | - |