あれは大昔のことだね。この石垣島が長い間大変な日照りが続いて水がなくなり、畑は石のようになって固くひび割れ、農作物は出来なくなった。そのうちに食べ物がなくなって、島中が飢饉になり、怖い病気が流行った。だから、島では毎日のようにもう年寄りとか子供は、バタバタと人が死んで行く。これ以上大飢饉が続けば、島では人っ子一人いなくなるというありさまであった。島の人達は、「もうこのまま続くと、どの村もほろんでいくんじゃないかなあ。」ということで、もう村村の人がみんな集まって、御嶽(おたけ)にこもり、雨乞いをして神様に対して色々お願いもした。若者は、山に登って火を焚き雨乞いをするなど、夜中までやったが一向に雨は降らないし、病気もおさまらなかった。老若男女は一堂に集まり話し合ったがなかなか名案は浮かばない。すると、もの知りの最長老が言われた。「とにかく、こうなったら満月の日に、夕方から山の上に登ってお祈りをして月の神様にお願いしたらどうか。」と提案された。そこで老若男女は満月の日に山の頂上に集まって、「月の神様、どうか恵みの雨を降らして下さい。流行疫病をこの島から一掃して下さい。どうか世果報(ゆ が ふ)の世、繁盛の世をお願いします。」とひたすらお月様にお祈りをした。ちょうど、お月様が真上に上ったときに、満月のお月様がにっこり微笑(ほほえ)んで言われた。「ああ、みんなの願いは分かった。病気にもならない、また年を取らない不老長寿の妙薬が自分の所にあるからそれをあげよう。アールパンナーという男を島にやるから、鶉(うずら)と雲雀(ひばり)をお供つけその薬を取りに月の御殿へよこしなさい。」それを聞いて、みんな大喜びをした。アールパンナーのアールは八重山方言で東のことで、パンナーのパンは足、ナーは愛称の意で、東の方からこの島へあがってきた男という意味である。島の人達は大喜びで、それから毎日、島の東の方の海を見てアールパンナーが上陸する日を待っていた。それから、何日か後、石垣島の東の水平線の方から、黒い大きな人影みたいなのが見えた。島の人達が息を飲んでじっと見つめていたら、それがだんだん、だんだん近づいてきた。それは、もうとにかくこれまでまだだれも見たこともない、それはまぎれもなく頭が雲に付くような大きな身体のアールパンナという人だった。大男のアールパンナは石垣島に上陸すると疲れたと見えて、頭を沖縄で一番高い於茂登山(お も とやま)に枕して、胸は竹富島(たけとみじま)に置き、両足は西表(いりおもて)にひっかけてすぐ横になった。アールパンナの長い長いふんどしの先は、西表島のずうっと西の与那国島の近くに届くほど長かったそうだ。巨人のアールパンナーにとって島の東の海は膝ほどなく、西の西表と与那国(よ な ぐに)の海は、ふんどしの前たれをちょっと濡らす程の背丈のある大男でした。それで、若者達は、大きな梯子(はしご)を作り、巨人の耳たぶへ登り、大声で呼びました。「あなた様がアールパンナーですか。」と聞くと、「そうだ。」とまるで雷のような大きな声が返ってきた。「島の人は、あなたが見えるのを待っておりました。どうかお月様から、薬を持ってきてください。お願いします。」と大声で叫んだ。するとこのアールパンナが、むっくり起き上がってね、「まあ、それならばこれからお月様まで行ってこよう。」と言って、お月さんの神様のところへ不老不死の妙薬を取りに行くことにしたそうだ。アールパンナがお月様のところへ行くときには、桃太郎みたいにお供にはね、雲雀と鶉を従えて月の世界までどんどん旅して行って、幾日かでお月さんのところへようやく着いた。アールパンナーがね、月の世界に行ったら、そこはもう花がいっぱい咲いていて小鳥がさえずっていて、とにかくまだ見たことない龍宮みたいな世界でね、極楽の世界だった。アールパンナーは月の御殿の門の前に立って、「私はアールパンナーという男だ。月の神様に会いにきた。門の扉を開けて通してもらいたい。」と大声で怒鳴った。お城の門番は、アールパンナーがあまり大きいから、入るのを止めたそうだ。それでも、アールパンナーは、どうしてもお城に入って、月の妙薬をもらおうとすると、門番はどうしても入れないというので、アールパンナーは怒って、「どうして、入れないんだ。人間に頼まれてきたのだから、中に入れろ。」と、大暴れに暴れた。あまりに騒がしいので、その門の騒ぎをお城におられた月の神様が高窓から見て、「これはもう大変。」と月の女神様がアールパンナーに動けなくなるように石になる術をかけた。すると、さすがの大男のアールパンナーも、もうそこで石になって仁王立ちのまま動けなくなってしまった。今月に見える黒い影は、アールパンナーが天秤を担いで立ったまま石になって動けなくなったアールパンナーなんだそうだ。アールパンナーといっしょにきた雲雀と鶉は、もうどうしたらいいか分からないから困っていると、月の女神様が、「あんたたちはどうしてここに来たの。」と聞いてくれたので、雲雀と鶉が月まで来たわけを話すと、月の女神は、「そんならこれが不老不死の病気にもかからない薬だから、人間の所へ持ってゆきなさい。」と不老不死の妙薬を雲雀と鶉に渡した。雲雀と鶉は、桶に入った不老不死の薬を前と後になって、棒で担いで途中まで来ると、ちょうどウリズンの頃で非常に日和もいいし、野原には草花もたくさんきれいに咲いて、イチゴもいっぱい赤く実っていた。雲雀と鶉は重い桶を長い間担いできたので、「もう旅で疲れた、とにかく休もう。」と不老不死の薬を入れた桶を地面に置いたまま苺を食べたりしてちょっと遊んでおったそうだ。そこに喉が乾いて水を探していたハブが現れてね、このハブはちょうどそこに桶が置いてあったからね、のぞいて見るときれいな水が入っていたので、その水を飲もうとして、あわてて桶を引っ繰り返してしまったから、この大事な薬の水はみんなハブの体にかかり地面にこぼれてしまった。しばらくして我に返った雲雀と鶉は大事な薬桶のことを思い出し、帰ってみると薬桶は横倒しになり、中の妙薬はてかった。それで、ハブが大事な水をこぼしたのに気がついたから、「これは、まあけしからん。」と怒ってね、ハブを捕まえようとしたら、雲雀は足をハブに踏んづけられて雲雀の足はこんなに曲がってしまった。月の神様はこの様子を見ておられ、怒って鶉の尻尾を捕まえようとすると必死になった鶉は尾をひっちぎりられたまま逃げたので、鶉の尻尾は今も短くなっておる。ハブはこの不老不死の薬を浴びたおかげで毎年、自分の体の殻を取って大きくなり、若返って長生きできるようになったそうだ。それからというもの、その薬が島に届かなかったので、もう島の人はもうがっくりしてね、それきりなにも出来ないで苦しんだけれどもねえ、そのうちに飢饉も病気もなくなって、ようやく生き延びたそうだ。
| レコード番号 | 47O341062 |
|---|---|
| CD番号 | 47O34C081 |
| 決定題名 | アールパンナー(共通語) |
| 話者がつけた題名 | - |
| 話者名 | 宮里英詳 |
| 話者名かな | みやざとえいしょう |
| 生年月日 | 19240131 |
| 性別 | 男 |
| 出身地 | 沖縄県石垣市字石垣 |
| 記録日 | 19980516 |
| 記録者の所属組織 | 沖縄口承文芸学術調査団 |
| 元テープ番号 | 石垣市石垣 T37 A01 |
| 元テープ管理者 | 沖縄伝承話資料センター |
| 分類 | 動物昔話、 本格昔話 |
| 発句(ほっく) | - |
| 伝承事情 | 字石垣の喜舎場ケンショウさんから聞いた。 |
| 文字化資料 | - |
| キーワード | 大昔,石垣島,日照り,飢饉に,病気,御嶽,雨乞い,神様,老若男女,最長老,満月,お祈り,月の神様,恵みの雨,世果報の世,繁盛の世,不老長寿の妙薬,アールパンナー,鶉,雲雀,月の御殿,アール,東,パン,足,ナー,愛称,於茂登山,竹富島,西表,与那国島,巨人,大きな梯子,耳たぶ,雷,大きな声,月の世界,龍宮,極楽,門番,女神様,術,動けなくなって,黒い影,天秤を,桶,ウリズン,野原,イチゴ,ハブ,尻尾, |
| 梗概(こうがい) | あれは大昔のことだね。この石垣島が長い間大変な日照りが続いて水がなくなり、畑は石のようになって固くひび割れ、農作物は出来なくなった。そのうちに食べ物がなくなって、島中が飢饉になり、怖い病気が流行った。だから、島では毎日のようにもう年寄りとか子供は、バタバタと人が死んで行く。これ以上大飢饉が続けば、島では人っ子一人いなくなるというありさまであった。島の人達は、「もうこのまま続くと、どの村もほろんでいくんじゃないかなあ。」ということで、もう村村の人がみんな集まって、御嶽(おたけ)にこもり、雨乞いをして神様に対して色々お願いもした。若者は、山に登って火を焚き雨乞いをするなど、夜中までやったが一向に雨は降らないし、病気もおさまらなかった。老若男女は一堂に集まり話し合ったがなかなか名案は浮かばない。すると、もの知りの最長老が言われた。「とにかく、こうなったら満月の日に、夕方から山の上に登ってお祈りをして月の神様にお願いしたらどうか。」と提案された。そこで老若男女は満月の日に山の頂上に集まって、「月の神様、どうか恵みの雨を降らして下さい。流行疫病をこの島から一掃して下さい。どうか世果報(ゆ が ふ)の世、繁盛の世をお願いします。」とひたすらお月様にお祈りをした。ちょうど、お月様が真上に上ったときに、満月のお月様がにっこり微笑(ほほえ)んで言われた。「ああ、みんなの願いは分かった。病気にもならない、また年を取らない不老長寿の妙薬が自分の所にあるからそれをあげよう。アールパンナーという男を島にやるから、鶉(うずら)と雲雀(ひばり)をお供つけその薬を取りに月の御殿へよこしなさい。」それを聞いて、みんな大喜びをした。アールパンナーのアールは八重山方言で東のことで、パンナーのパンは足、ナーは愛称の意で、東の方からこの島へあがってきた男という意味である。島の人達は大喜びで、それから毎日、島の東の方の海を見てアールパンナーが上陸する日を待っていた。それから、何日か後、石垣島の東の水平線の方から、黒い大きな人影みたいなのが見えた。島の人達が息を飲んでじっと見つめていたら、それがだんだん、だんだん近づいてきた。それは、もうとにかくこれまでまだだれも見たこともない、それはまぎれもなく頭が雲に付くような大きな身体のアールパンナという人だった。大男のアールパンナは石垣島に上陸すると疲れたと見えて、頭を沖縄で一番高い於茂登山(お も とやま)に枕して、胸は竹富島(たけとみじま)に置き、両足は西表(いりおもて)にひっかけてすぐ横になった。アールパンナの長い長いふんどしの先は、西表島のずうっと西の与那国島の近くに届くほど長かったそうだ。巨人のアールパンナーにとって島の東の海は膝ほどなく、西の西表と与那国(よ な ぐに)の海は、ふんどしの前たれをちょっと濡らす程の背丈のある大男でした。それで、若者達は、大きな梯子(はしご)を作り、巨人の耳たぶへ登り、大声で呼びました。「あなた様がアールパンナーですか。」と聞くと、「そうだ。」とまるで雷のような大きな声が返ってきた。「島の人は、あなたが見えるのを待っておりました。どうかお月様から、薬を持ってきてください。お願いします。」と大声で叫んだ。するとこのアールパンナが、むっくり起き上がってね、「まあ、それならばこれからお月様まで行ってこよう。」と言って、お月さんの神様のところへ不老不死の妙薬を取りに行くことにしたそうだ。アールパンナがお月様のところへ行くときには、桃太郎みたいにお供にはね、雲雀と鶉を従えて月の世界までどんどん旅して行って、幾日かでお月さんのところへようやく着いた。アールパンナーがね、月の世界に行ったら、そこはもう花がいっぱい咲いていて小鳥がさえずっていて、とにかくまだ見たことない龍宮みたいな世界でね、極楽の世界だった。アールパンナーは月の御殿の門の前に立って、「私はアールパンナーという男だ。月の神様に会いにきた。門の扉を開けて通してもらいたい。」と大声で怒鳴った。お城の門番は、アールパンナーがあまり大きいから、入るのを止めたそうだ。それでも、アールパンナーは、どうしてもお城に入って、月の妙薬をもらおうとすると、門番はどうしても入れないというので、アールパンナーは怒って、「どうして、入れないんだ。人間に頼まれてきたのだから、中に入れろ。」と、大暴れに暴れた。あまりに騒がしいので、その門の騒ぎをお城におられた月の神様が高窓から見て、「これはもう大変。」と月の女神様がアールパンナーに動けなくなるように石になる術をかけた。すると、さすがの大男のアールパンナーも、もうそこで石になって仁王立ちのまま動けなくなってしまった。今月に見える黒い影は、アールパンナーが天秤を担いで立ったまま石になって動けなくなったアールパンナーなんだそうだ。アールパンナーといっしょにきた雲雀と鶉は、もうどうしたらいいか分からないから困っていると、月の女神様が、「あんたたちはどうしてここに来たの。」と聞いてくれたので、雲雀と鶉が月まで来たわけを話すと、月の女神は、「そんならこれが不老不死の病気にもかからない薬だから、人間の所へ持ってゆきなさい。」と不老不死の妙薬を雲雀と鶉に渡した。雲雀と鶉は、桶に入った不老不死の薬を前と後になって、棒で担いで途中まで来ると、ちょうどウリズンの頃で非常に日和もいいし、野原には草花もたくさんきれいに咲いて、イチゴもいっぱい赤く実っていた。雲雀と鶉は重い桶を長い間担いできたので、「もう旅で疲れた、とにかく休もう。」と不老不死の薬を入れた桶を地面に置いたまま苺を食べたりしてちょっと遊んでおったそうだ。そこに喉が乾いて水を探していたハブが現れてね、このハブはちょうどそこに桶が置いてあったからね、のぞいて見るときれいな水が入っていたので、その水を飲もうとして、あわてて桶を引っ繰り返してしまったから、この大事な薬の水はみんなハブの体にかかり地面にこぼれてしまった。しばらくして我に返った雲雀と鶉は大事な薬桶のことを思い出し、帰ってみると薬桶は横倒しになり、中の妙薬はてかった。それで、ハブが大事な水をこぼしたのに気がついたから、「これは、まあけしからん。」と怒ってね、ハブを捕まえようとしたら、雲雀は足をハブに踏んづけられて雲雀の足はこんなに曲がってしまった。月の神様はこの様子を見ておられ、怒って鶉の尻尾を捕まえようとすると必死になった鶉は尾をひっちぎりられたまま逃げたので、鶉の尻尾は今も短くなっておる。ハブはこの不老不死の薬を浴びたおかげで毎年、自分の体の殻を取って大きくなり、若返って長生きできるようになったそうだ。それからというもの、その薬が島に届かなかったので、もう島の人はもうがっくりしてね、それきりなにも出来ないで苦しんだけれどもねえ、そのうちに飢饉も病気もなくなって、ようやく生き延びたそうだ。 |
| 全体の記録時間数 | 20:56 |
| 物語の時間数 | 17:57 |
| 言語識別 | 共通語 |
| 音源の質 | ◎ |
| テープ番号 | - |
| 予備項目1 | - |